Journal of Computer Chemistry, Japan
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研究論文
滑り運動再構成系におけるアクチン繊維の局所的屈曲伝播の可視化
櫻沢 繁坂田 花國田 樹
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ジャーナル オープンアクセス

2012 年 11 巻 1 号 p. 43-48

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抄録

筋収縮における筋タンパク質の運動を分子レベルで観察して得られる観察像には,筋タンパク質分子が係わる化学反応に関する情報が含まれている.その化学反応に伴う運動と熱ゆらぎに伴う運動とを区別することができれば,化学反応の発生位置を可視化する事が可能となる.そこで我々は,筋タンパク質分子による化学反応の可視化を目指し,滑り運動再構成系のアクチン繊維の運動の中から,熱ゆらぎとは区別される構造化された運動を抽出する事を試みた.再構成系で観察されたアクチン繊維の顕微鏡像に画像解析をして得られるアクチン繊維の骨格データ列から,相関解析によって局所的に伝播している屈曲を抽出して屈曲伝播のベクトルとして可視化した.この手法によって,アクチン繊維の後端方向から先端方向に向かう屈曲の伝播距離と伝播速度がATP濃度の増大に伴って微増する傾向を捕えることができた.他方,後端に向かう屈曲の伝播距離は,ATP濃度に依存せずに一定であった.すなわち,これらの屈曲はATP加水分解反応と関係があり,特に屈曲の生成部位にはアクチン繊維における化学反応の可視化に向けた有用な情報が含まれていると考えることができる.

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