Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Ni-Ptナノ粒子におけるPt拡散特性の分子動力学的解析
長尾 歩石元 孝佳古山 通久宮村 弘ジョン クヤバラチャンドラン ジャヤデワン
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2015 年 14 巻 3 号 p. 83-84

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Abstract

Pt decorated cubic Ni nanoparticles exhibited high catalytic activity in spite of the fact that they contained only a few at.% of Pt. The unusual catalytic property was believed due to the unique arrangement of Pt on the edges and corners of the Ni cube, which was experimentally confirmed to be the consequence of the diffusion of Pt atoms from the core of the particle at the initial stages of the reaction. Thus an explanation for diffusion property of the Pt atoms in the particle was attempted by performing molecular dynamics calculation by constructing models based on experimental findings.

1 研究背景と目的

Ptは高い触媒活性を示す材料であるが,高コストなどの理由から,使用量の抑制が望まれている.Cuya Huamanらは,少量のPt使用量で高い触媒活性を示すNi-Pt立方体ナノ粒子触媒を開発した [1].高い触媒活性の理由は,この粒子が,立方体の辺と頂点にPtが偏在した構造を有するためであると考えられる.また,その生成機構として,Pt粒子が析出し,その表面にNiが析出してPtコア-Niシェル構造が形成され,時間経過により,粒子内でPtが拡散し,このケージ状構造が生成することを実験的に明らかにしたが [2],詳細な機構は不明である.そこで本研究では,分子動力学法を用いて粒子内のPt原子の拡散特性を評価し,ケージ状構造が生成する機構の解明を試みた.

2 方法

実験で得られた知見より,Ptナノ粒子が析出した後,その上にNi原子が吸着する段階があると考え,様々な表面状態を有するPt(100)表面およびPt(111)表面にNi原子が吸着した系のモデルを作成し,分子動力学計算ソフトLAMMPSを用いて分子動力学シミュレーションを行った.また,Pt粒子上にNiが析出した時のモデルとして,PtコアNiシェルナノ粒子およびPtとNiの界面に隣接するNi原子1または2個を空孔にしたPtコアNiシェルナノ粒子を作成し,様々な温度で計算を行い,粒子中におけるPtの拡散特性を評価した.さらに,実験によって得られたPtケージ構造と同じ形状を有する立方体Ni-Ptナノ粒子について,様々な組成でモデルを作成して分子動力学計算を行い,定常とみなせる構造を用いてPtの位置による安定性を評価した.使用したモデルの一部をFigure 1に示す.モデルは一辺30 nmの周期的立方体セル中の孤立粒子として作成し,単独のクラスターとみなすことができる.計算には,X. W. Zhou et al. [3]のEmbedded Atom Methodポテンシャルパラメータを使用した.

Figure 1.

 Models considered; (a) adsorption of Ni atom on Pt(100) surface, (b, c) Pt682Ni6452 core-shell nanoparticle, (b) overview, (c) cross-section view and (d) Ni13440Pt1456 cubic nanoparticle with Pt cage structure.

3 結果と考察

Pt(100)表面に吸着したNiは八面体サイトを経由してPt(100)表面内のPtの位置を占有し,Pt(111)に吸着したNiは格子間位置を経由せずにPt(111)表面内のPt位置を占有した.いずれの場合も,1個のPt原子が表面に押し出された.Pt格子に侵入したNiは,表面に押し出されたPtと置換されることが多く,面内に侵入したNi原子は安定ではないと考えられる.一方,空孔を有するモデルでは結晶面の種類にかかわらず,侵入したNiが侵入した位置に留まった.このことから,Pt表面に存在する空孔はNiがPt面内に侵入した時の歪みを緩和し,安定化させる働きがあると考えられる.また,キンクやステップにはPt表面を拡散するNiを吸着し,安定化させる働きがあった.

Pt682Ni6452コアシェルナノ粒子モデルを用い,1000 K∼1500 Kの範囲で100 K刻みの温度で平均二乗変位(MSD)を計算し,MSDが1 Å2以上である温度での拡散係数Dを用いてアレニウスプロットを作成することで,粒子合成時の温度である443 KにおけるDを算出した結果,D = 10−35(m2/s)となった.また,このモデルのPtとNiの界面に隣接したNi原子1個を空孔と置換した粒子 (Pt682Ni6451)および界面に隣接したNi原子2個を空孔と置換した粒子(Pt682Ni6450)のモデルを用いて443 Kにおける拡散係数を算出したところ,Dはそれぞれ10−40(m2/s),10−34(m2/s)となった.STEM観察によるマッピングから概算した拡散係数はD = 1.1 × 10−20(m2/s)であり,今回計算されたDよりも大きな値をとった.これらの値はM. S. A. Karunaratne et al. [4]が実験的に示したNi中のPtの拡散係数とよい一致を示した.

同じ形状•組成でPtの配置だけが異なるモデル(ケージ状,コアシェル,ランダム)を有する粒子モデルを用いて,粒子の安定性を比較した.粒子構成はNi14720Pt176, Ni13440Pt1456, Ni11248Pt3648, Ni8528Pt6368であり,14896原子から成る立方体の辺と頂点のみにPtを配置した組成,fcc単位格子1×1個,2×2個,3×3個分の太さのケージを作るようにPtを配置したモデルである.さらに,Ni-Ptナノ粒子のケージ以外のNi部分を硝酸で溶かして残ったケージ部分の組成がおよそPt75at.%, Ni25at.%( = Pt3Niの組成)であったことから,fcc単位格子1個分 (Ni14080Pt816),2×2個分(Ni12544Pt2382),3×3個分(Ni10544Pt4352)のPt3Niケージを作るようにPtを配置したモデルを作成して計算を行なった.計算後のモデルは概ね立方体の形状が保たれていたが,頂点が丸みを帯びた形状となっていた.コアシェルまたはケージ構造を有する粒子の全エネルギーからランダム固溶体の全エネルギーを引いてその差をΔEとし,縦軸にΔE,横軸にPtの割合をとって作成したグラフをFigure 2に示す.ΔEは全て正であり,ランダム固溶体粒子はケージ構造を持つ粒子より常に安定となり,実験事実と異なる結果になった.このことは,実験環境において粒子表面に吸着している保護剤やイオンと粒子表面原子との相互作用等も考慮することの必要性を示唆している.

Figure 2.

 Energy gaps between cage and core-shell models and random models.

参考文献
 
© 2015 日本コンピュータ化学会
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