Journal of Computer Chemistry, Japan
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Technical Paper
Development of Visualization and Analyzing Software "MDVIS" for Molecular Dynamics Simulation Program MXDORTO
Shunsuke OISHIMasashi OOKAWA
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2015 Volume 14 Issue 4 Pages 147-151

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Abstract

酸化物のシミュレーションに有用である分子動力学(MD)シミュレーションプログラムMXDORTO用の結果を可視化するソフトワエアVisualizer for Molecular Dynamics Simulation (MDVIS)を開発した. MDVISは,メイン,データ,オペレーション,チャートの4つのフォームで構成されている.メインフォームには3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)によりMDシミュレーションで記録されている原子座標を連続的に表示する. オペレーションフォームの設定により特定の場所のみを表示したり,周期境界条件を考慮した拡張ができる.さらに選択した原子の軌跡を表示させる機能や選択した2原子間の原子間距離を計算する機能を備えた.3DCGの画面に同期している温度,圧力,格子定数,密度,内部エネルギーなどのデータを数値で表示するデータフォームとシミュレーション時間全般での変化を表示させるチャートフォームを実装した.

1 はじめに

分子動力学(MD)法で得られた結果を可視化することは,解析を容易にするだけでなく重要な知見を導く可能性を高めるため重要である.河村により開発された分子動力学計算プログラム MXDORTO [1]は,大規模な酸化物系の分子シミュレーションを行うためには非常に有用なプログラムである.MXDORTOの結果表示ソフトウェアには,河村による結果表示プログラム集や「分子動力学解析結果表示システム(mdview)」等かある.しかし,河村によるソフトウェアはマウスを利用したグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)や3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)への対応がなされていない.mdviewは,3DCGにより結果表示が行われ解析用ソフトウェアとしては有用であったが近年開発者が不在となったため新たな機能を追加するなどのソフトウェアのバージョンアップが行えなくなっている.

一方,MXDORTOは様々なシミュレーションに対応するために随時更新され最新版のデータ出力ファイルはmdviewには対応しなくなってしまった.その後,mdviewのソースコードが開示されたものの「手続き型プログラミング」によって開発されたmdviewは,第三者による拡張や保守が難しいため大きな改修はされていない.

近年,従来の「手続き型プログラミング」から拡張や保守性が容易に行える「オブジェクト指向」へ開発環境が移行してきている [2].分子動力学シミュレーションの解析用の可視化ソフトウェアは,シミュレーション手法の要求に対応して拡張されることが期待される.我々の研究室ではMXDORTOのシミュレーション結果を可視化する「オブジェクト指向」のソフトウェアVisualizer for Molecular Dynamics Simulation (MDVIS)を新規に開発し評価版の報告を行った [3].本報では評価版を改良し正式版としたMDVISについて報告する.

2 開発手法

MXDORTOでは計算ステップごとの原子座標,温度や圧力,エネルギーなどのシミュレーション結果がテキスト形式でファイルfile09p.datと file09v.datに出力される.これらの数値情報とシミュレーション条件を入力するファイルfile05.datと初期構造のファイルfile07.datを読み込んで,原子位置を3DCGで連続的に表示させ,解析に必要なシミュレーション結果をグラフ化して表示させることにした.

mdviewの機能を参考をとして「オブジェクト指向」の開発手続きに従いソフトウェア作成を行った.MDVISを動作させるOSには,普及率の高いWindowsを選択した.開発環境にMicrosoftが提供している.Net Framework 4を採用し,開発言語をC#とした.ライブラリにはAForge.Video.dll,OpenTK.dll,GLSharp.dll,OpenTK.GLU.dll,AForge.Video.VFW.dll [4]を使用した.

3 ソフトウェアの外観と機能

MDVISは4つのフォームからなり,シミュレーションを3DCGで表示してアニメーション操作をするメインフォーム,数値やシミュレーション条件などを表示するデータフォーム,原子や結合などの表示要素を設定するオペレーションフォーム,そして温度や圧力などをグラフ化したチャートフォームから構成される.以下に各フォームの特徴を述べる.

3.1 メインフォーム

メインフォームでは,計算に用いたセル(MDセル)と全ての原子の座標を,入力条件により指定したステップ間隔で連続的にアニメーションとして表示する.Figure 1には一例としてフォルステライト(Mg2SiO4)融体の計算結果を表示した.MDセルの枠や軸の描画が可能である.マウス操作により任意の向きからMDセルと各原子の表示,拡大縮小,平行移動が行える.指定のMD軸方向からの描画はボタン操作で容易に行える.

Figure 1.

 Snap shot of forsterite melt in the "main form" window.

結合距離に相当する原子間距離をオペレーションフォームで入力することによって原子間の結合や多面体が表示可能となる.

スナップショット表示とシミュレーションの結果のムービー表示が可能である.

3.2 データフォーム

このフォームは,Figure 2に示したSimulation,Conditionの2つのページから構成される.

Figure 2.

 Snap shot of "Data form" windows. Left: Page of Simulation, Right: page of Condition.

Simulationページには,各計算ステップで求められたシミュレーション結果(温度,圧力,エネルギー,密度,モル体積,MDセルの大きさ(計算領域),イオンの温度及び平均二乗変位(MSD))が数値で表示される.メインフォームのグラフィックスと同期している.

Conditionページには,総粒子数,各原子の数,計算の目的温度および温度の変化速度,計算ステップ数,密度,計算を終了した日時が表示される.

3.3 オペレーションフォーム

このフォームはFigure 3に示したBond and status,Selection,Boundary Condition,Othersの4つのページで構成されている.Bond & Statusページでは,表示に用いる原子の大きさ,色,透過度を設定する.原子の大きさは,値の直接入力も可能であるが,AtomicData.txt (原子情報ファイル)に記載してある原子半径の読み込みにより,原子半径や,価数と配位数で分類されたイオン半径 [5] を選択して読み込むこともできる.

Figure 3.

 Snap shots of "operation form" windows. From left side, pages of "Bond & status," " Selection," "Boundary Condition" and "Others."

原子間の結合の設定は2つの原子種と結合距離を入力することでメインフォームのスクリーン上に反映される.この結合距離を基にして多面体が描画される. Selection ページでは,上部に2つの原子間距離の計算に関する情報,下部に軌跡を描画するために選択した原子のリストが表示される.Boundary Conditionページでは,表示領域の設定を, Othersのページでは背景色や原子情報ファイルのパスなどその他の環境設定を行える.

3.4 チャートフォーム

Figure 4に示したチャートフォームには,温度,圧力やエネルギー等のシミュレーション結果を計算ステップに対してグラフ表示することができる.データフォームのSimulation ページ(Figure 2)にあるChartボタンを押すと表示される.グラフに描画された赤線は,メインフォームに表示している計算ステップと同期している.

Figure 4.

 MSD of Mg2+ ion drawn in "chart form."

3.5 表示機能

MDVISではMDセルの特定領域のみを示す表示領域の変更(Figure 5)と拡張表示(Figure 6)を機能として備えている.表示領域はa,b,cの3軸について正負の方向から領域を設定でき,領域外の原子を表示しないようになる.拡張表示は中心となるMDセルの前後左右上下に,周期境界条件を反映したレプリカセルが追加される.

Figure 5.

 Off cut of MD cell. Left: Boundary Condition page in the operation form window, right: main form window.

Figure 6.

 Expanded MD cell.

フォルステライト融体中のMg2+イオン軌跡を原子座標の軌跡の表示例としてFigure 7に示した.軌跡を表示する原子やイオンを選択するとオペレーションフォームのSelection ページに表示され,3DCGにおけるアニメーション表示とともに赤い線で軌跡が残る.全原子の軌跡を一度に表示させることも可能である.

Figure 7.

 Trajectory of Mg2+ ions in Mg2SiO4 melt. Left: selected atom was shown in Selection page. Right: Trajectory was described as red line in main form windows.

3.6 原子間距離解析機能

オペレーションフォームのSelection ページで原子を2つ選択しGetボタンを押すと全ステップにおける原子間距離を取得し,グラフ表示される.さらに,テキストデータとして出力することが可能である.

4 結言

操作が容易なGUIを備えたMXDORTOの結果を3DCG表示し,解析が可能なソフトウェアMDVISを開発した.オブジェクト指向の開発手続きに従って開発したため計算された粒子やステップ数によっては,読み込む時間がかかることや多くのメモリーが必要になるなどデメリットもあるが,近年市販されたパソコンを利用すれば性能が十分高いので十分実用になると考えている.

本ソフトウェアはhttp://www.busitu.numazu-ct.ac.jp/ookawa/mdvis.html上にMDVIS120304.zipとして公開し,ダウンロードが可能となっている.

簡易的なマニュアルとしてこのWEBサイト上に操作方法を記述しており,MDVIS120304.zipファイル内にもreadme120304.txtとして収めている.

Acknowledgment

最後にMDVISの開発に協力をいただいた岡山大学 河村雄行教授,室蘭工業大学 澤口直哉准教授に感謝申し上げます.

参考文献
 
© 2015 Society of Computer Chemistry, Japan
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