Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
SbおよびTe化合物のリガンド交換・リガンドカップリング反応メカニズム
小林 正人黒田 悠介秋葉 欣哉武次 徹也
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2016 年 14 巻 6 号 p. 199-200

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Abstract

Theoretical and computational studies on the mechanisms of ligand exchange reaction (LER) and ligand coupling reaction (LCR) of hypervalent pentacoordinate Sb and tetracoordinate Te compounds were carried out. Contrary to the previous suggestion from experimentalists, the lone pair electrons of Te do not participate in LER. Also, LER of R5Sb proceeds via a similar mechanism to that of R4Te. As for the LCR of R5Sb, the apical-equatorial coupling mechanism was suggested.

1 5配位SB及び4配位TEのLER

高周期典型元素は3中心4電子結合を利用することにより,形式的にオクテットを超える配位数を持つ超原子価化合物を形成することが知られている.秋葉らは2007年に,三方両錐型ペンタアリールアンチモン(R5Sb)の反応を詳細に検討し [1],低温(約60 °C)で分子間のリガンド交換反応(LER)が起こることを見出した.テトラアリールテルル(R4Te)でもLERが起こることが以前より報告されていたが,これには孤立電子対(LP)が重要な役割を果たすと考えられていたため,この発見は予想外であった.そこで,R5SbとR4Te (R = Ph, Me)のLERのメカニズムを,密度汎関数理論(DFT)計算とnatural bond orbital (NBO)解析 [2]などを用いて検討した.汎関数には,分散力を取り込むことができるLC-BOP-LRD [3]を,基底関数にはLanL2DZdp ECPとDZPを用いた.

反応物・生成物は,リガンドがPh,Meの場合とも二量体の方が分離系よりも安定となった.分散力を補正しないDFT計算では二量体構造は得られなかったので,今回の検討では分散力補正が欠かせなかったことが分かる.LERの反応経路は,Ph5SbとPh4Teの場合はアニオン性のリガンドが一つ転位した中間体を経る段階的反応であり,Me5SbとMe4Teの場合には協奏的反応となった.ここでは代表例として,Me4TeのLERに伴うNBO変化について詳しく説明する.NBO解析にはルイス構造の指定が必要であるが,反応に伴って結合が組み替わるため,転位するリガンドのCがLPを持つルイス構造を指定した.Figure 1に,反応物構造でエカトリアル位にあるMeのCとTeの間の反結合性NBOとリガンドのLP NBOの反応に伴う変化を示した.図中の数値は,各NBOの占有数を示す.遷移状態(TS)では,リガンドのLP NBOの占有数が増加するので,アニオン性を持っていることがわかる.転位に伴って擬回転が生じ,反応物構造ではエカトリアル位にあったリガンドが生成物構造ではアピカル位に変化している.また,反結合性NBOの占有数が増加するが,これは転位してきたリガンドのLPと相互作用して,以下のようなスキームで3中心4電子結合が生成することに由来する.

Figure 1.

 Changes of the Te–C antibonding (red and blue) and Me lone pair (yellow and purple) NBOs of Me4Te along LER. The occupation numbers of these NBOs were given together.

また,ここには示していないが,TeのLP NBOは反応には関与せず,占有数も1.97–1.98でほとんど変化しない.まとめると,Me4TeのLERは3中心4電子結合の組み替えと擬回転が同時に生じ,TSが安定化して起こること,中心原子のLPは反応に関与しないため,Sbでも反応が進行することが分かった.Phリガンドでも,基本的にこの議論は変わらない.詳細は,既報を参照いただきたい [4].

2 5配位SBのLCR

先の秋葉らの検討 [1]ではまた,ペンタアリールアンチモンが200 °C程度で分子内リガンドカップリング反応(LCR)を起こすことも判明している.p-トリル(Tol)とp-トリフルオロメチルフェニル(Ar)の2種類のリガンドの比を作り分けたArnTol5−nSbを全て合成して熱分解実験を行ったところ,生成物としてAr2が優先的に得られることが判明した.三方両錐型の有機典型元素化合物では,電気的に陰性なリガンドがアピカル位を優先的に占めるアピコフィリシティが知られているため,この結果からLCRはアピカル位同士のリガンドが反応する機構で進行する,と考えられた.一方,諸熊ら [5]はより単純なH5SbのLCRに対する量子化学計算を行い,エカトリアル位同士のリガンドが反応することを示している.ArnTol5−nSbの反応メカニズムをDFT計算により検討したところ,LCRのTSはFigure 2に示すようなアピカル-エカトリアルカップリングに対応するものだけが得られることが分かった.TSの安定性は,Figure 2のHOMOを形成しているn-π*相互作用により定性的に理解され,これによって生成物としてAr2が優先されることも説明できる.また,H5Sbについてもポテンシャルエネルギー曲面を詳細に調べたところ,アピカル-エカトリアルカップリングの反応経路も進行することが判明した [6].

Figure 2.

 HOMO of the TS ([Ar…ArTol3Sb+]) structure for producing Ar2.

Acknowledgment

本研究では,JSPS科研費25810011,15H00908の助成を受けた.計算の一部は岡崎の計算科学研究センターと九州大学情報基盤研究開発センターの計算機を利用して行った.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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