Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Ru(0)触媒による共役ジエンとスチレンのクロスカップリング反応における置換基効果の理論的解明
出口 光大槻 恒太中村 沙季平野 雅文川内 進
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2016 年 14 巻 6 号 p. 215-216

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Abstract

Mechanistic studies for linear cross-dimerization between 2,3-dimethylbuta-1,3-diene and para-substituted styrenes by a Ru(0) complex, Ru(η6-naphthalene) (η4–1,5-COD), were performed computationally. The COD ligand is actually not a simple spectator ligand, it engages to assist the hydrogen migration steps. The computational studies verified the oxidative coupling step to govern the overall reaction as a rate-determining step. The reaction rate was found to be correlated well with the electronegativity of styrenes.

1 はじめに

炭素-炭素間の直接的な結合形成は簡便かつ副産物の少ない有用な方法であり,汎用化学製品において多くの注目を集めている [1] .われわれはRu(0)を用いた共役ジエンとアルケンのクロスカップリング反応の反応機構の研究を実験・理論計算の両面から行ってきた [2,3].本研究ではRu(0)触媒による共役ジエンとスチレンの二量化反応の反応経路について,密度汎関数法理論よる解明を行なった.これにより酸化的カップリング反応(Figure 1および2参照)がこの反応における律速段階であることを裏付けることが出来たので報告する.

Figure 1.

 Overall mechanism of the main product for the cross-dimerization reaction.

Figure 2.

 Energy profile for the cross-dimerization reaction between 2,3-dimethylbut-1,3-diene and styrene.

2 方法

計算手法は長距離補正および分散力補正されたωB97X-D汎関数を用い,基底関数はRuに対してはSDDを,Ru以外の原子に対しては6-31G (d,p)を用いた.またベンゼンの溶媒効果はPCM法により考慮した.ソフトウェアはGaussian09 [4]を用いた.

3 結果と考察

Ru(0)触媒による共役ジエンとスチレンの二量化反応について得られた反応経路とそれに沿ったポテンシャルエネルギープロファイルをFigure 1および2に示した.この結果からCOD配位子が水素移動の段階(Figure 1,2におけるB-D間)において反応の活性化エネルギーを5.7 kcal/mol下げる役割を担っていることが判明した.

それぞれのスチレンp-置換体における酸化的カップリングの活性化エネルギーを計算し,実験的に求めた反応速度定数の比との関係を調べたところ良い相関が見られた(Figure 3).

Figure 3.

 Hammett-type plot between the reaction rate constants and the calculated activation energies for oxidative coupling reaction (kZ: reaction rate for para-substituted styrene, kH: reaction rate for styrene).

このことからもクロスカップリング反応の律速段階が酸化的カップリングであることが示唆される.

また,Figure 4に示したようにスチレンp-置換体の電気陰性度の増加に伴い反応速度は上昇した.従って,このクロスカップリング反応ではスチレンはアクセプターとして機能していることが明らかとなった.

Figure 4.

 Hammett-type plot between the reaction rate constants and the electronegativities of para-substituted styrene for oxidative coupling reaction (kZ: reaction rate for para-substituted styrene, kH: reaction rate for styrene).

Acknowledgment

最後に,全ての計算は,東京工業大学のTSUBAME2.5及び自然科学研究機構 分子科学センターのスーパーコンピューターを用いた.また,研究費を援助していただいたJST ACT-Cに深く感謝いたします.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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