Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
分子動力学法を用いたナトリウムケイ酸塩ガラスの修飾イオンとネットワーク構造の関係
山本 優也澤口 直哉佐々木 眞
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2016 年 14 巻 6 号 p. 181-183

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Abstract

Network structure of sodium silicate glasses was investigated by molecular dynamics simulation. The simulations were performed that determined using the first-principles calculation. Variation of SiO4 units and bond angles for alkali content were consistent with experimental results. It was also suggested that sodium ion and calcium ion give different effect to glass structure each other.

1 目的

実用ガラスの基本組成であるケイ酸塩ガラスはSiO4 四面体構造が三次元的に連なったネットワーク構造を形成すると考えられている.このケイ酸塩ガラスにネットワーク構造を切断するNa+, Ca2+ 等の修飾イオンを導入すると,ガラスの物性は組成によって変化をすることが知られており,これまで多くの研究が行われてきた [1].我々は分子動力学(Molecular Dynamics, MD)法を用いてナトリウムケイ酸塩ガラスを調べており,その際に第一原理計算の結果を利用してガラス組成毎に原子間相互作用を最適化することで,従来よりも広い組成範囲でガラス構造の再現が可能になったことを報告した [2].本研究ではこの原子間相互作用を用いて,ナトリウムケイ酸塩ガラスの修飾イオンとネットワーク構造の関係性を調査した.比較のため,カルシウムケイ酸塩ガラスの構造解析も行った.

2 方法

MD 計算に用いた原子間相互作用 [3]を式(1) に示す.   

Uij(rij)=zizje24πε0rij+f0(bi+bj)exp(ai+ajrijbi+bj)cicjrij6+D1ijexp(β1ijrij)D2ijexp(β2ijrij)(1)

ここで,rij は原子i, j間の距離,ε0 は真空の誘電率, e は素電荷,f0 は定数 (41.865 kJ nm−1 mol−1) である.イオンの電荷zi はアルカリケイ酸塩結晶,カルシウムケイ酸塩結晶についてCASTEP [4] によるMulliken 電荷解析 [5]から求めた.式(1) におけるSi とO のパラメータai, bi, ci, D1ij, D2ij, β1ij, β2ij は非経験的分子軌道計算を利用して求め,Na とCaのai, bi, ciは経験的に設定した [2].式(1) を用いて,xNa2O-(1−x)SiO2(NAS), xCaO-(1−x)SiO2 (CAS), (Na2O とCaO の組成比x = 0.3, 0.4, 0.5)ガラスのMD 計算をNPT アンサンブルで行った.はじめに,粒子約8000 個を一辺が約50 Åのセルにランダムに配置し,0.1 MPa, 3000 K 一定のシミュレーションを実行して構造緩和を行った.その後,冷却速度を0.01 K/step とし3000 K から300 K まで合計4000 psかけて系を冷却した.続けて,300 Kで10 ps 間のシミュレーションを行い,これを解析した.全てのMD 計算にMXDORTO [6] を使用した.

3 結果・考察

二体相関関数を計算し,300 K におけるガラス中の各イオン対の距離を調べると,すべてのイオン対の第一近接距離は結晶中の原子間距離に沿った分布を示した.NAS ガラス中のSi-O は約0.150 nm-0.185 nm に分布し,x による変化はなかった.一方で,Si-Si 間距離はNAS ガラスとCAS ガラスのいずれにおいても,x が増加するに伴い短くなり,XANES の結果 [7]と同様の傾向を示した.

Figure 1 に,Si と結合している架橋酸素 (Bridging Oxygen, BO)の数n で分類したSiO4 ユニットの存在比Qn を示す.NAS ガラスのQn 比の傾向は29Si MAS-NMR [8] のx > 0.3 でQ3 が減少し,Q2 が増加する傾向と一致した.また,CAS ガラスのQn 比はNAS ガラスの結果とほぼ一致した.

Figure 1.

 Qn ratio in xAO-(1−x) SiO2 glasses (A = Na2, Ca) with NMR results [8].

Figure 2 にMD 計算から得たBO と非架橋酸素(Non-Bridging Oxygen, NBO) 及びSi と結合していない酸素(Free Oxygen, FO) の存在比を示す.NBO 比はNAS ガラスについてのXPS の報告 [9] と一致した.また,CAS ガラスのNBO 比はNAS ガラスと同様の結果を示した.

Figure 2.

 Bridging oxygen (BO), non-bridging oxygen (NBO) and free oxygen (FO) ratio in xAO-(1−x) SiO2 glasses (A = Na2 (triangle), Ca (square)) with XPS result [9].

Figure 3 にNAS ガラスとCAS ガラス中の(a) O-Si-O 角と(b) Si-O-Si 角の分布を示す.NAS ガラスのO-Si-O 角, Si-O-Si 角はアルカリケイ酸塩ガラスの実験で報告されている角度分布 [10,11]と一致した.CAS ガラスのO-Si-O 角はNAS ガラスよりもやや広い分布を示した.また,Si-O-Si 角の分布は,x の増加に伴いNAS ガラスとCAS ガラスともに低角度側へシフトした.XANES の結果 [7] よりx 増加に伴いSi-Si 距離が短くなることが報告されており,これに対応した結果が得られたと考えられる.NAS ガラスとCAS ガラスのSi-O-Si 角を比較すると,x の増加に伴う分布の変化に違いが見られた.Na+ イオンとCa2+ イオンのイオン半径 [12] はほぼ同じであると考えられるため,この差はNa+ イオンとCa2+ イオンの電荷の違いがネットワーク構造へ影響を及ぼしたと考えられる.

Figure 3.

 (a) O-Si-O and (b) Si-O-Si bond angles of xAO-(1−x) SiO2 glasses (A = Na2(solid line) or Ca (dotted line)).

4 結論

第一原理計算を用い,組成毎に最適化した原子間相互作用を用いたMD シミュレーションは,実験で観測されているナトリウムケイ酸塩ガラスの構造の指標であるSi-O 距離,Qn 比, NBO 比, Si–O-Si 角の組成変化をよく再現することが分かった.一方で,Na+ イオンとCa2+ イオンの相違もMD 計算から得られており,今後,異なる種類の修飾イオンがネットワーク構造へ与える影響について調べる必要がある.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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