Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Reduced HOMO-LUMO Gapを用いたCNTの電子構造の炭素数依存性の解析
森川 大野村 泰志溝口 則幸
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2016 年 14 巻 6 号 p. 186-188

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Abstract

The carbon number dependences of the chemical stabilities the several kinds of carbon nanotubes (CNTs) with unique Clar formula were examined by means of reduced HOMO-LUMO gap. It was found that the distributions of reduced HOMO-LUMO gaps of CNTs are divided into two regions with a border line of reduced HOMO-LUMO gap = about 3.0 and that the dependences on the tube length have distinct characters in the two regions. The difference in the dependences on the tube length is characterized by the existence of the 4n-conjugated circuit and by the existence of the fully-benzenoid structure. It was also indicated that the existence of the fully-benzenoid structure generates chemical instability in CNTs.

1 はじめに

有限の長さを持つアームチェア型のカーボンナノチューブ(carbon nanotube:CNT)は, その長さの増大に伴って, HOMO-LUMO gap やClar構造 [1]が周期的に変化する事が知られている [2,3]. 我々は以前, このアームチェア型CNTのトポロジカル共鳴エネルギー (topological resonance energy: TRE) [4,5]にも同様の周期的変化が存在する事を示し, その変化は符号付きケクレ構造の代数和(algebraic structure count:ASC) [6]が周期3で0となることによるものである事を示した [7].

さらに, 特徴的なClar構造を有するfinite-length Clar cell (FLCC) [8]を持つジグザグ型CNTを対象に同様の検討を行った結果, chiral-index (n,0)のうち, nが三の倍数である時FLCCがfully-benzenoidとなり, これらのFLCCを持つCNTのHOMO-LUMO gapはアームチェア型と同様のチューブ長依存性を持つ事, これに対しfully-benzenoidとならないFLCCを持つCNTのHOMO-LUMO gapについてはアームチェア型とは異なる変化が生じる事を示した. そして, このHOMO-LUMO gapのチューブ径依存性はASCが全ケクレ構造数 (SC)と等しくなるか否かによって特徴付けられる事を見出した [9].

このような, 特徴的なClar構造を持つCNTにおけるHOMO-LUMO gapの構造依存性の違いは, チューブ軸に垂直な4nのconjugated circuit [10]の有無によって生じるものである. そこで本研究では, この構造依存性の異なる二つのCNTの電子状態が炭素数やchiral-indexに対してどのように変化するかを検討するため, 特徴的なClar構造を有する様々なCNTを対象に, トポロジカルな観点から解析を行った. なお, 化学的安定性の指標としては, サイズの影響を補正したより精度の高い指標となるreduced HOMO-LUMO gap [11]を用いた.

計算対象にはエッジの構造を維持したまま炭素数30から85まで増加させた, アームチェア型, FLCC-ジグザグ型, FLCC-カイラル型CNTを用いた. なお, FLCC-ジグザグ型, FLCC-カイラル型CNT は, chiral-index (n,m)の内, n-mの値が3の倍数となるCNTはFLCCがfully-benzenoid構造となり, 4nのconjugated circuitを持ち, ASCがSCと等しくならない(Figure 1). また, アームチェア型CNTもFLCCがfully-benzenoidとなるCNTと見なす事ができる.

Figure 1.

 FLCC of zigzag and chiral CNTs (Opened-up cube).

Figure 2.

 Reduced HOMO-LUMO gaps of armchair CNTs vs. carbon number.

2 方法

Reduced HOMO-LUMO gapはヒュッケルMOレベルのHOMO-LUMO gapを, その参照構造のHOMO-LUMO gapで割ったものとして定義される [11]. これは, HOMO-LUMO gapからπ電子ネットワークのサイズ効果(一般的にはπ電子ネットワークが大きくなるほどHOMO-LUMO gapは小さくなる)を取り除くように調製したものであり, 異なる大きさの芳香族炭化水素 (PAHs) の速度論的安定性の比較のための指標としてHOMO-LUMO gapより優れたものとなる. 一般的に, reduced HOMO-LUMO gapが1.3以下となる PAHsは高い化学反応性を示す.

3 結果と考察

アームチェア型CNTにおけるreduced HOMO-LUMO gapの結果をFigure 2に示す. アームチェア型CNTのreduced HOMO-LUMO gapは炭素数の増加に対して周期的に振動しながら, ほぼ一定に推移している事が分かる. さらに, chiral-indexの増加に従ってreduced HOMO-LUMO gapの最大値は上昇するが, その値はほぼ3.0に収束する事も分かった.

次にFLCC-ジグザグ型及びFLCC-カイラル型CNTのreduced HOMO-LUMO gapの結果をFigure 3Figure 4に示す. chiral-index (n,m)の内, n-mの値が3の倍数となる(FLCCがfully-benzenoidとなる) CNTについてはアームチェア型に見られたものとほぼ同様の変化を示したのに対し, n-mの値が3の倍数とならないCNTについては炭素数に対して単調に増加していく傾向が見られ, 同程度の炭素数の場合, chiral-indexの増加に従ってreduced HOMO-LUMO gapは減少行く. さらに, それら二つの結果はreduced HOMO-LUMO gap の値が3.0付近を境として生じている事が分かる.

Figure 3.

 Reduced HOMO-LUMO gaps of FLCC-zigzag CNTs vs. carbon number.

Figure 4.

 Reduced HOMO-LUMO gaps of FLCC-chiral CNTs vs. carbon number.

これらの結果は, CNTの化学的安定性の炭素数, 及びchiral-index依存性は極めて対照的な二つの変化からなる事を示している. こうしたCNTの化学的安定性の違いはケクレ構造の観点から次の様に説明される.

二つのchiral-index, nmの差が3の倍数, あるいは0となるCNTはFLCC-がfully-benzenoidとなり, 必ず4nの大きさのcircuitを持つ. このため, これらのCNTの安定性はそれを持たないものと比べて低下する. ただし, chiral-indexの増加に従い, 最小の4n-conjugated circuitは大きいものとなる (Table 1). これは即ち, 不安定化に対する4n-conjugated circuitの寄与が相対的に減少して行く事を意味する. このため, chiral-indexの増加に対してCNTの化学的安定性は増加傾向を示す.

Table 1. Minimum sizes of 4n-conjugated circuits in CNTs.

二つのchiral-index nmの差が3の倍数とならないCNTの場合, 4nの大きさのcircuitを持たない. これによりASCがSCと等しくなるため, SCを用いて安定性の議論が可能となる. これらのCNTのSCは炭素数が大きい(チューブ長が長い)ほど指数関数的に増大する. さらに, 同程度の炭素数の場合は, chiral-indexが大きい(直径が大きい)ほどチューブ長が短くなるため, SCは減少する. 例として, 同じ炭素数を持つFLCC-(6,1) CNTとFLCC-(6,4) CNTのSCをTable 2に示す. これらのSCの炭素数依存性により, CNTの化学的安定性は炭素数の増大に対しては増加傾向を, chiral-indexの増大に対しては減少傾向を示す.

Table 2. SC of FLCC-(6,1) and (6,4) CNTs.

以上の結果より, 特徴的なClar構造を持つCNTのreduced HOMO-LUMO gapの炭素数依存性は, 二つのchiral-index nmの差が3の倍数となるもの(0となるものも含む)とならないもので二種類に分けられる事, そしてその化学的安定性の違いは, conjugated circuitやASCを用いて化学グラフ理論的に極めて簡潔に理解する事が可能である事が示された. さらに, 一般的なベンゼノイドにおいて, fully-benzenoid構造の存在は安定性の目安となるが, CNTにおいてはその存在は4n-conjugated circuitsの出現に対応しており, 相対的な不安定性を生じさせる要因となる事も示された.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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