Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Theoretical Design for Near-infrared Light Absorption of N3-skeleton Dye: Spin-forbidden Excitation
Shohei KANNOYutaka IMAMURAMasahiko HADA
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2016 Volume 15 Issue 3 Pages 77-78

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Abstract

We theoretically examine spin-forbidden excitations for an N3-skeleton Ru dye with a thienyl group and iodine anion by time-dependent density functional theory with spin-orbit coupling. We found that the oscillator strength in the near-infrared region and spin-orbit coupling are enhanced by introducing the thienyl group into bipirydyl ligands.

1 はじめに

色素増感太陽電池では,Grätzelらが開発した中心金属にルテニウムを用いたN3色素などが増感剤として頻繁に用いられている [1].最近,瀬川らはスピン禁制励起によって更に効率的に近赤外光を吸収するDX1色素を提案した [2].我々はこれまでに,スピン禁制励起に関する理論的検討 [3,4]を行い,N3やDX1にヨウ素を配位子として導入(Figure 1)することで,スピン-軌道相互作用(SOC)が強くなり,より長波長領域にスピン禁制励起による吸収ピークが現れることを報告した [5].しかし,長波長領域の光吸収強度は十分ではなく,向上の余地があった.

Figure 1.

 Geometries of N3-I (left) and Thienyl-N3-I (right).

荒川らは色素の配位子のターピリジル基にチエニル基を導入することで,色素の光吸収強度が増加することを報告した [6].そこで,本稿では,Figure 1に示したN3-Iのビピリジル基にチエニル基を導入したThienyl-N3-Iを用いて,スピン禁制励起による長波長領域の光吸収を検討した.

2 計算方法

N3-IとThyenyl-N3-Iの励起エネルギーは,Zeroth-Order Regular Approximation (ZORA)ハミルトニアンでのスカラー相対論を考慮したTD-DFT (SR-TDDFT)とSOCを摂動的に考慮したTD-DFT (SO-TDDFT)で計算した [7].TD-DFT計算では,基底関数として,RuにZORA TZPを,その他の元素にZORA DZP を用い [8],アセトニトリルの溶媒効果をConductor-like Screening Model (COSMO)によって考慮した [9].計算プログラムは Amsterdam Density Functional Program Package (ADF) を使用した [10].汎関数として PBE1PBEを用いた [11].

3 結果と考察

TD-DFT計算によって得られたN3-IとThienyl-N3-Iの吸収スペクトルをFigure 2に示す.N3-IではSOCを考慮することで,吸収端における励起ピークがSR-TDDFTの場合と比較し0.09 eVほど長波長化している.しかし,この励起ピークはスピン許容励起の寄与が主であり,スピン禁制励起とは言い難い.一方Thienyl-N3-Iでは,N3-Iと比較し若干短波長シフトを示すが,スピン禁制励起の寄与が主なピークが長波長側に現れている.さらに,Thienyl-N3-Iでは,チエニル基の導入によりルテニウムとヨウ素に局在していた占有軌道は,共役系の配位子へ非局在化した.そのため,共役系からなる非占有軌道とのオーバーラップが大きくなり,振動子強度が全体的に増加した.これにより,より長波長まで強い吸収強度で光を吸収することが確認でき,増感色素として有望なことがわかる.また,励起による電気双極子モーメントの変化もN3-Iと比べ小さくなるため,溶媒効果の影響が小さいことが予測される.

Figure 2.

 Absorption spectra of N3-I (top) and (down) Thienyl-N3-I calculated by SR-TDDFT (blue line) and SO-TDDFT (red line).

N3-IとThienyl-N3-IのSOCの差を明らかにするため,両色素の吸収端の励起状態の解析を行った.Figure 3に示すように,両色素ともSR-TDDFTの一重項励起状態S1と2つの三重項励起状態T3とT4が相互作用することで,SO-TDDFTにおける3つの励起状態が得られる.

Figure 3.

 Excitation energies of N3-I (top) and Thienyl-N3-I (down) calculated by SR-TDDFT (left and right side) and SO-TDDFT (center).

N3-IではS1とT3, T4間のエネルギー差が0.06 eV以上と比較的大きいが,Thyenyl-N3-Iでは0.01 eV程度まで小さくなっている.そのためThienyl-N3-Iでは強いSOCによってSR-TDDFTにおける励起ピークが分裂し,スピン禁制励起の寄与が大きいピークが現れることがわかった.

Acknowledgment

本研究は,JST,CRESTの支援を受けたものである.

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