Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Armchair α-Graphyne NanotubeのHOMO-LUMO Gapのチューブ長依存性
森川 大野村 泰志溝口 則幸
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2016 年 15 巻 3 号 p. 57-59

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Abstract

Graphyne nanotubes (GNTs) are new carbon-based nanotubes and have a structure similar to the carbon nanotubes (CNTs). In the GNTs, armchair α-GNT is the highest resemblance to armchair CNT, and algebraic structure counts (ASC) are equal. This correspondence suggests that the HOMO-LUMO gaps in the finite-length armchair α-GNT oscillate with the increase of the tube length in the same fashion as the oscillation of HOMO-LUMO gaps in finite-length armchair CNT. In this work, the tube length dependences of the HOMO-LUMO gaps in the finite-length armchair α-GNT were examined by means of the Hückel method and density functional theory (DFT). It was found that the HOMO-LUMO gaps in armchair α-GNT oscillate as functions of the tube length with the period of 3.

1 はじめに

1991年に飯島澄男によって発見されたcarbon nanotubes (CNTs) [1]は,グラフェンシートを巻いた円筒状の構造を持ち,得意な物性を示すナノマテリアルである.CNTの構造は,二つの自然数n, m(nm)の組であるカイラル指数(n,m)によって定義される.m = 0となるCNTをジグザグ型,m = nとなるCNTをアームチェア型と呼び,それ以外のCNTをカイラル型と呼ぶ.近年,このCNTに似た構造を持つ新しい炭素ベースのナノチューブが注目されている.それがgraphyneをベースとするgraphyne nanotubes (GNTs)である [2,3,4].

Graphyneとはgrapheneの炭素結合間にアセチレン構造を組み込んだ炭素同素体の一つであり,sp2及びsp炭素からなるシート状分子である(Figure 1左) [5].Graphyneはgrapheneにアセチレン構造を組み込むパターンによって幾つかの構造に分類されるが,この内,grapheneの全ての炭素結合間にアセチレン構造を組み込んだものをα-graphyneと呼ぶ.このα-graphyneのシートをCNTと同様に巻く事で得られるα-GNT (Figure 1右)はCNTに最も近い構造をしており,CNTと同様にジグザグ型,アームチェア型,カイラル型による構造の分類が可能である.この内,周期的境界条件を課したジグザグ型α-GNTは,ジグザグ型CNTと同様のバンドギャップのカイラル指数依存性を持つ事が報告されている [4].

Figure 1.

 α-graphyne and (5,5) α-GNT.

このようなCNTとα-GNTの構造の類似性は,これまで有限長のアームチェア型CNTに見られていたHOMO-LUMO gapのチューブ長依存性 [6,7]が,アームチェア型α-GNTのHOMO-LUMO gapにも同様に見られる可能性を示唆するものである.特に,α-GNTのケクレ構造と,それに対応する構造を持つCNTのケクレ構造は,1対1の対応をしているため,これら二つの共役系のケクレ構造の総数は等しい.かつ,これら二つの共役系のconjugated circuit [8]のサイズmode (4kか4k+2か)は共通なので((n,n)α-GNTの持つ最小の4k+2-conjugated circuitのサイズは18,最小の4k-conjugated circuitのサイズは12n(n,n) CNTの持つ最小の4k+2-conjugated circuitのサイズは6,最小の4k-conjugated circuitのサイズは4n),二つの共役系のalgebraic structure count (ASC) [9,10]も等しい.この事は,アームチェア型CNTのHOMO-LUMO gapのチューブ長依存性の起源となるASCが0となる構造の周期的な出現 [11]がα-GNTにも存在する事を意味している.そこで本研究では,量子化学計算を用いて有限長のアームチェア型α-GNTのHOMO-LUMO gapのチューブ長依存性を検討した.

2 計算方法

正負の符号をつけたケクレ構造の代数和であるASCは,分子のHOMO-LUMO gapの大きさの優れた指標となる.ASCが0となる時,その分子のHOMO-LUMO gapは0となり,高い化学反応性を持つ.なお,ASCは一般的に炭素数の増大に対して指数関数的に増加するため,本研究で用いる指標としては,ケクレ構造の総数(SC)に対してASCが占める割合を用いた.

HOMO-LUMO gapの計算にはヒュッケル分子軌道法,及びDFT法を用いた.DFT計算については,Gaussian 09を用い,B3LYP/6-31G (d)レベルで構造最適化,及びHOMO,LUMOエネルギーの計算を行った.なお,構造最適化に際しては対称性を維持するため,symm = verylooseコマンドを用いた.

HOMO-LUMO gapのチューブ長依存性については,シクロパラフェニレンの全ての炭素結合間にアセチレン構造を組み込んだ最小のα-GNTをN = 1とし,チューブ軸方向に環が一つ増えるごとにNを増加するように延伸を行い,それぞれのHOMO-LUMO gapを計算する事で評価した.計算は (4,4)〜(7,7)α-GNTを対象とし,Nが1から9のα-GNTまで行った.(5,5)N α-GNTにおける延伸の例をFigure 2に示す.

Figure 2.

 (5,5)N=1∼3 α-GNT.

3 結果と考察

(4,4)α-GNTにおけるASCの結果をFigure 3に示す.なお,比較のためにヒュッケルレベルにおけるHOMO-LUMO gapの結果についても同時に記載した.Nの増加に伴い,ASC = 0が周期3で出現している事が分かる.この結果は,計算した全てのα-GNTに見られた.さらに,ヒュッケルレベルにおけるHOMO-LUMO gapは同じNの場合,カイラル指数によらず,つまりチューブの直径によらず常に一定となった.

Figure 3.

 ASC/SC (solid line) and HOMO-LUMO gap (|β|) (dashed line) of (4,4)N=1∼9 α-GNT.

次に,DFT計算により得られた(5,5),(6,6)α-GNTにおけるHOMO-LUMO gapをFigure 4に示す.双方共にNの増加に伴いHOMO-LUMO gapに周期的振動が生じている事,それはNが三の倍数となる時に極小値をとるために生じている事が分かる.なお,Nが三の倍数となる時のヒュッケル法でのHOMO-LUMO gapは0であるが,Jahn-Teller効果によりα-GNTの対称性は低下するため,DFT法におけるNが三の倍数となる時のHOMO-LUMO gapは0ではなくなっている.

Figure 4.

 HOMO-LUMO gap (eV) of (5,5)N and (6,6)N α-GNT vs. N. (B3LYP/6-31G (d))

以上の結果から,有限長のアームチェア型α-GNTのHOMO-LUMO gapは,アームチェア型CNTと同様にチューブ長依存性を持つ事,そしてそれはNが三の倍数となるα-GNTのASCが0となり,HOMO-LUMO gapが極小となる事で生じる事が明らかとなった.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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