Journal of Computer Chemistry, Japan
Online ISSN : 1347-3824
Print ISSN : 1347-1767
ISSN-L : 1347-1767
速報
第一原理計算による水分解用光カソード材料La5Ti2CuS5O7の解析
阪田 薫穂久富 隆史後藤 陽介MAGYARI-KÖPE BlankaDEÁK Peter山田 太郎堂免 一成
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 15 巻 3 号 p. 81-82

詳細
Abstract

La5Ti2Cu1-xAgxS5O7, the solid solution of La5Ti2CuS5O7 and La5Ti2AgS5O7, is a candidate of photocatalysts for sunlight-driven water splitting. It is known that La5Ti2Cu0.9Ag0.1S5O7 has a narrower band gap than La5Ti2CuS5O7 and La5Ti2AgS5O7. In this study, density functional theory (DFT) calculation was performed to analyze the band structure and effective mass of La5Ti2Cu1-xAgxS5O7 solid solutions. The band gap of La5Ti2Cu0.75Ag0.25S5O7 was calculated to be narrower than those of La5Ti2CuS5O7 and La5Ti2AgS5O7, which was qualitatively consistent with the experimental observation. The effective mass for electron was also estimated from the band structure to be smaller in the b-axis direction than in the other directions.

太陽光を用いて水を水素と酸素に分解する光触媒電極は,エネルギー•環境問題の解決に大きく寄与できる可能性があり,より高性能な電極材料を目指して研究が進められている.光触媒カソード材料としては,オキシカルコゲナイド系の材料であるLa5Ti2CuS5O7や,CuをAgに元素置換した材料であるLa5Ti2Cu1-xAgxS5O7が注目されている.La5Ti2CuS5O7は,カソードとして用いた際にオンセットポテンシャルが他素材に比べて優れていることや一次元的導電性を持つ等,実験により種々の特性が示唆されている [1]が,電子状態などの物性の詳細は明らかになっていない.本研究では密度汎関数法による第一原理計算によりバンド構造を評価し,電子状態の結晶方位依存性について,特に有効質量に着目して検討した.また,当研究グループでは,以前にLa5Ti2CuS5O7やLa5Ti2AgS5O7の状態密度計算 [2]を行っており,今回,さらにLa5Ti2Cu1-xAgxS5O7(x = 0.25, 0.5, 0.75)の電子状態を求め,組成との相関について解析した.

本研究では,VASPプログラムに組み込まれたPW-DFT (GGA,PBE汎関数), PAW法 (projector augmented wave)を用いて計算を行った.構造は,Inorganic Crystal Structure Database (ICSD) [3] を参考にし,格子定数は文献値で固定し,セル内の原子の構造最適化を行った.計算には,Figure 1 に示す模式図のユニットセルをb軸方向に2層にした[La5Ti2Cu1-xAgxS5O7]8を用いた.k点はMonkhorst-Pack set 4 × 12 × 4を,kinetic-energy cutoffは300 eVとした.

Figure 1.

 Unit cell of La5Ti2CuS5O7 ([La5Ti2CuS5O7]4)

La5Ti2Cu1-xAgxS5O7の結晶構造のa,b,c 軸それぞれに対応した逆格子空間はk点 (100),(010),(001) となる.La5Ti2CuS5O7の,それぞれの方位における価電子帯の上端,伝導帯の下端を含む軌道を Figure 2 に示す.ユニットセル[La5Ti2CuS5O7]8を使用した場合,Γ点でのバンドギャップは1.28 eVとなった.また,La5Ti2Cu1-xAgxS5O7 (x = 0.25, 0.5) については,状態密度からバンドギャップを見積もったところ,La5Ti2CuS5O7やLa5Ti2AgS5O7と比較して狭くなった(Figure 3).これまでに,紫外可視拡散反射スペクトル(DRS)から,La5Ti2Cu0.9Ag0.1S5O7のバンドギャップがLa5Ti2CuS5O7やLa5Ti2AgS5O7と比較して狭くなることが示されており [1],実験の結果と対応した計算結果が得られた(Figure 3).

Figure 2.

 Band structure of La5Ti2CuS5O7

Figure 3.

 Band gap of La5Ti2Cu1-xAgxS5O7 (x = 0, 0.25, 0.5, 0.75, 1)

Figure 2より,a軸方向は価電子帯の上端,伝導帯の下端共に,バンドの傾きが平らになるのに対して,b軸方向はバンド分散が大きくなることがわかった.バンド図を元に,La5Ti2CuS5O7の電子の有効質量を計算した結果,価電子帯のb軸方向の有効質量は0.57となり,a軸方向の値 2.45やc軸方向の値2.02と比較して小さくなった.La5Ti2AgS5O7の場合も,価電子帯のb軸方向の有効質量は0.48となり,a軸 1方向の値 1.53やc軸方向の値1.21と比較して小さい値となった.これまでにb軸方向に一次元導電性をもつ材料であることが示唆されている [1]が,密度汎関数法を用いた第一原理計算からも支持されることがわかった.

References
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
feedback
Top