Journal of Computer Chemistry, Japan
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Electronic Structure of Carbon Nanowalls andHydrogen Adsorption
Ikuo KINOSHITAYukiumi KITAMasanori TACHIKAWAMasaru TACHIBANA
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2016 Volume 15 Issue 5 Pages 177-183

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Abstract

カーボンナノウォール(CNW)の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観測し,CNWの結晶子間の境界領域に折れ曲がったグラファイト構造があることがわかった.CNWの電子構造を紫外光電子分光(UPS)で測定し,高配向性グラファイト(HOPG)と比較した.HOPGと同様にCNWでも層間バンドが観測された.一方,カーボンナノチューブに見られるσ-π混成バンドが観測された.昇温脱離法(TPD)の測定から,重水素がCNWの主に境界領域に吸着することがわかった.CNWの境界領域の1つのモデルとして折れ曲がったコロネン分子を用いて水素吸着に関して第一原理計算をおこなった.オントップサイトとホローサイトどちらも折れ曲げ角が大きくなるほど水素の吸着エネルギーが大きくなった.NBO解析から吸着サイトの炭素の結合がsp2からsp3に変化するためだとわかった.

1 研究目的

炭素系物質への水素吸着は,化学反応 [1]の基礎的研究から,水素貯蔵あるいは水素燃料 [2]などの産業的応用,さらには宇宙物理 [3]に至るまで非常に幅広い分野 [4]での興味の対象である.特に,2次元構造をもつ炭素材料に対して,水素吸着は実験測定 [5,6,7,8]および理論計算 [9,10]の両面で研究されている.フラーレン,カーボンナノチューブ,ナノグラフェンといったナノサイズの炭素材料はユニーク構造と量子サイズ効果をもち,様々な新規な機械的,化学的,電気的特性をもたらしている.その中で,近年,カーボンナノウォール(CNW)と呼ばれる2次元構造の炭素ナノ構造がWuら [13]によって造られた.走査電子顕微鏡(SEM)によって,CNWが波上に並びながら基板に垂直に立っている様子が観測されている [14,15,16].ラマン分光からは,CNWが高いグラファイト結晶性をもつ小さいサイズの結晶子で構成されていることを示している [17,18].透過型電子顕微鏡(TEM)によっても構造的特性が明らかにされている [19,20].

水素吸着の理論的研究においては,密度汎関数法を用いて水素原子/分子とグラファイト表面の相互作用について研究されている [9,10,21,22,23].JelaoicaとSidisは,コロネン分子(C24H12)を(0001)グラファイト表面のモデルとした水素原子吸着の計算を行い,エネルギー障壁により隔てられた物理吸着と化学吸着の2つの領域の存在を示している [9].その研究では,さらに化学吸着の領域において,サイト別に依存した結合特性を評価している.同様の結果は,グラファイト表面の非対称周期的モデルの理論的解析からも報告されている [10,21].また,sp2結合炭素の欠陥や欠損による局所的電子状態の変化や水素の化学吸着が炭素ネットワークのsp2からsp3への局所的な再軌道混成化を導くという議論も報告されている [11,12].Ruffieuxらは水素吸着サイトの周りの炭素原子のsp2からsp3への局所的な軌道混成を計算から示唆している [5].しかしながら,我々の知る限り,水素吸着に対する電子構造の詳細な理論的議論はこれまでに報告されていない.

本研究では,CNWへの水素吸着について,CNWの構造特性と電子状態から議論することを目的とした.その中で,CNWに特異な構造である境界領域のモデルとして折れ曲がった炭素平面を提案した.実験測定からは,TEM観察によりCNWの構造的特質を明らかにした.そこでは,小結晶子間の境界領域に炭素平面が折れ曲がった歪が導入されていることが観察された.また,CNW電子状態を紫外光電子分光(UPS)によって,高配向性グラファイト(HOPG)と比較して測定することで,グラファイト結晶性に由来する電子状態と境界領域の電子状態に由来する電子状態を分離して測定した.さらに,重水素原子の吸着したCNWでもUPS測定を行い,昇温脱離法(TPD)により,CNWからの重水素の高い脱離温度を観測した [24].

境界領域における水素吸着の理論的な議論を行うために,単一グラファイト面のモデルとしてコロネン分子を用い,分子を折り曲げることで,CNW内の小結晶子間のひずみを再現させ,水素原子と折り曲げられたコロネン分子との相互作用エネルギーを計算した.計算結果からは吸着サイトの炭素と吸着水素原子の結合特性を電子軌道から論じた [25].

2 実験方法

CNWはSi(100)基板上に,CH4,H2,Ar混合ガス雰囲気下でプラズマ増強化学蒸着(plasma-enhanced chemical vapor deposition; PECVD)で成長させた [17].蒸着過程では,雰囲気圧力を7.2 × 10−3 Torrに保ち,基板温度を1000 Kまで加熱した.成長したCNWのSEM像からは,平均的な長さ,高さ,厚みはそれぞれ1μm,0.5μm,10 nmであった.ラマン分光測定からはGバンドに対するDバンドの比(ID/IG)は2.4であった.Dバンドの強度は主にグラファイト性結晶の終端構造からの寄与であり,今回使用した試料のD/G比の値は,CNWがグラファイト結晶性の高い小さな結晶子から構成されていることを示している.TEM像は300 kVの加速電圧で観測した(H-9000UHR, Hitachi).TEM像を測定するために,成長した試料の一部を基板から剥がし,銅製グリッドの上に移して測定した.

UPSおよびTPD測定は,CNWが成長したSi基板をそのまま超高真空に導入し,繰り返し1100 Kまでアニールすることで清浄化した後に行った.アニールにより,アモルファス状の炭素はほとんど昇華されると考えられる.光電子分光測定は無偏光のHe I希ガス放電光(21.22 eV)を使用した.光電子スペクトルは半球型エネルギー分析器で測定した.基板に垂直にc軸をもつCNWとの比較のために,HOPGはc軸が電子エネルギー分析に直交するように試料ホルダーに固定した.本紙の光電子スペクトルはすべて基板垂直方向に放出した電子を測定した.

CNW上への水素原子吸着を調べるために,TPDをおこなった.TPDでは昇温速度を一定に保ちながら試料温度を加熱し,試料表面から脱離してくる分子を四重極質量分析器で計数測定した.UHVチェンバー内には残留ガスとして多量の水素分子が存在するため,水素分子(H2)のTPDを測定することは非常に困難である.そこで,H2分子の代わりに重水素分子(D2)のTPDを行った.重水素原子は,チャンバー内にD2を導入し,UHVチェンバー内に設置したタングステンフィラメントを過熱することで分子を解離させ,CNWに被爆させることで吸着させた.

3 計算方法

グラフィンのフラグメントのモデルとして,7つのベンゼン環で構成するコロネン(C24H12)分子を計算に用いた.Figure 1 (a)にコロネン分子を示す.図の点線に沿って分子を折り曲げていき,分子を側面からみたFigure 1 (b)にある折り曲げ角(θ)および水素原子と吸着サイトとの距離(RHX)の関数として水素吸着のポテンシャルエネルギーを,水素吸着サイトとして,Figure 1 (a)にあるオントップ(on-top)サイトとホロー(hollow)サイトの2つについて計算した.C–C間距離は,折り曲げたコロネンのそれぞれの角度において空間的緩和効果を考慮して安定化させた.すべての計算はB3LYP/6-31G (d,p)レベルでGaussian 03プログラムパッケージを用いて行った [26].このレベルの密度汎関数の計算はコロネン分子上への水素原子吸着エネルギーについて過小評価することがすでに知られている [23].本研究では分子折り曲げによる吸着への影響を定性的に議論した.

Figure 1.

 (a) Schematic illustration of coronene molecule. The red and blue circles represent the adsorption sites corresponding to the on-top and hollow sites, respectively. The coronene molecule is bent along the dotted line. (b) Side view of the bent coronene with respect to the angle θ.

4 結果と考察

4.1 TEM測定

Figure 2にCNWの典型的な高分解能像を示す.アモルファス領域に挟まれた2.5 nmの幅の領域で縦じま状に格子フリンジが観測されている.格子フリンジの平均間隔は0.34 nmであり,格子フリンジがグラファイト構造の(0002)に対応することが理解される.

Figure 2.

 A high-resolution image obtained from CNW film. The fringe lines between amorphous regions correspond to graphite basal planes.

この像から観測される重要な特徴は,グラファイト構造の(0002)平面の数が像の上部と下部で異なる点である.上部では12本のフリンジ線が観測されるのに対し,下部では8本の線しか観測されていない.炭素平面が終端しているか,あるいは折れ曲がった構造をとっていることが理解しうる.この欠陥構造は,結晶成長過程における結晶平面の終端と再結合によりできたものであると考えられ,CNWがグラファイト結晶性の高い小結晶子とそれらをつなぎ合わせる境界領域で構成されることがわかる.

4.2 UPS測定

測定されたCNWとHOPGの光電子スペクトルをFigure 3に示す.横軸はフェルミ準位を基準とした束縛エネルギーである.HOPGでは,13.73 eV (A)と5.35 eV (B)に2つのピークが見られた.ピークAはグラファイト層間に大きな電荷密度をもつ層間バンド(interlayer band)を終状態とする電子励起に起因する光電子放出である [27].ピークBはグラライトのバンド計算からグラファイト層内のπバンドであることがわかる [28,29].

Figure 3.

 Photoelectron spectra of CNW and HOPG. The spectra were plotted as a function of the binding energy of electrons with respect to Fermi level.

一方,CNWのスペクトルでは3つの構造が,13.73 eV,10.26 eV,3.22 eVに見られた.HOPGと同じ束縛エネルギーで見られたピークAはCNWのinterlayerバンドと推定できる.このinterlayerバンドは,2次元の層状構造をもたないシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCN)で見られていない [30].CNWとHOPGでまったく同じ束縛エネルギーでinterlayerバンドが測定されたことは,CNWがHOPGと同様に2次元層状構造を有することを示す.このことは,ラマン分光測定から得られる示唆 [17],つまり,CNWが高いグラファイト結晶性を有する結晶子で構成されていることに一致する.

HOPGで見られた π バンド由来のピークBはCNWでは観測されていなかった.励起光は無偏光であり,c軸が基板に対し平行であるCNWでは,グラファイト構造の中の π バンドはHOPGと同様に光電子放出が可能である.CNWでピークBの π バンドが観測されなかった理由は,CNWのグラファイト性結晶子がナノオーダーの小さいサイズであるからだと考えられる.炭素平面外に張り出す π バンドは結晶子間で摂動を受け易いと考えられる.

10.26 eVと3.22 eVのそれぞれに観測されたピークCとピークDはマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCT)でも観測されている [31].MWCTはカーボン結合面が湾曲しているために,グラファイトとは異なり,π バンドとσバンドの混成する電子状態をもつ.HOPGと同様に高いグラファイト結晶性をもっているCNWがMWCTと同様の電子構造をもつことはある意味で矛盾する.しかし,CNWはナノサイズの非常に高いグラファイト結晶子が集積した構造をとっている.結晶化の段階で,炭素平面の終端と終端同士の再結合が結晶子間の境界領域で炭素平面の折れ曲がった構造を作り出している可能性が考えられる.この折れ曲がった構造がσと π の混成電子状態を作り出すと考えられる.

光電子分光測定では,さらに重水素原子が吸着したCNWでの測定を行った.Figure 4に,室温で重水素原子を暴露した後の光電子スペクトルを示す.スペクトルは重水素吸着で影響を受けない13.73 eVのinterlayerバンドの光電子強度で規格した.重水素原子の吸着により,4 eVから12 eVの束縛エネルギーの範囲で状態密度(DOS)の増加が見られた.こお増大はHOPGでは観測されなかった.

Figure 4.

 Deuterium exposure dependence of photoelectron spectra. The spectra colored by blue, green, orange, red were measured after cleaning, exposure in deuterium atoms of 100 L, 400 L, and 100 L, respectively.

HOPG表面にプラズマ処理を行うことで水素原子吸着をさせて光電子分光測定をおこなった報告がある [32].そこでは,プラズマ処理により,HOPGの炭素平面に原子欠陥サイトをつくりC–Hの結合を誘起している.CNWにおいて水素吸着によりDOSの増加が見られたのは,構造欠陥のある境界領域に重水素原子が吸着し,炭素原子と重水素の結合軌道の形成が4 eV から12 eVのエネルギー領域での状態密度(DOS)の増加になったと考えられる.重水素原子吸着後に試料を950 Kまでアニールし再度光電子スペクトルを測定するとDOSの増強は解消され,清浄後の試料の光電子スペクトルとなった.

4.3 TPD測定

重水素原子吸着によるDOSの変化とグラファイト結晶子間の境界領域の関係はTPD測定を行うことでわかる.Figure 5はCNWに重水素原子を100 L,300 L,600 L被爆させた後に測定したTPDの結果である.昇温速度は3 K/s で測定した.HOPGにおける水素の昇温脱離測定 [6]から,450 K付近のピークはCNWのグラファイト構造のテラス部位からの重水素脱離だと考えられる.約800 Kの温度に大きなピークが観測された.ピーク強度は明瞭な重水素原子被爆量依存性を示している.このピークはHOPGでは観測されない.C:Hフィルムからの水素脱離の研究では,約800 Kのピークがsp3混成のCHx (x = 1–3)に帰属されている [8].カーボンナノシートからの熱脱離の研究でも同様の結論が報告されている [5].CNWの約800 Kのピークはグラファイト結晶子間の境界領域の炭素に結合した重水素原子が再結合して熱脱離したものと結論付けられる.

Figure 5.

 TPD of deuterium from CNW. The amounts of deuterium exposure of blue, green, and red were 100 L, 300 L, and 600 L, respectively. The heating rate was 3 K/s.

4.4 DFT計算

実験結果からは,(1) CNWの構造は顕微測定および電子分光測定からグラファイト結晶性の高いナノサイズの小結晶子体で構成されていること,(2)小結晶子間の境界領域には炭素平面の終端あるいは折れ曲がった構造をもつこと,そして(3)境界領域に吸着した水素が高い吸着エネルギー持つことがわかった.炭素平面の終端部位に水素が結合することは先行計算からも理解し易い.しかし,炭素平面が折れ曲がった部位で水素吸着は非常に興味深い.しかし,そのようなモデル計算を行った報告はない.境界領域の炭素構造のモデル提唱のために,我々は折り曲げた炭素平面への水素吸着の計算を試みた.

Figure 6はオントップサイトにおいて,様々な折り曲げ角度θのときの,RHXに対するポテンシャルの計算結果を示す.図から明らかなように,角度θが大きくなるにつれ,吸着エネルギー(ポテンシャルエネルギーの逆符号)が大きくなっていることがわかる.θ = 0°のコロネン分子で吸着エネルギーはRHXの全領域で負の値であるが,局所的なエネルギー極小値がRHX = 1.2 Åに見られる.θが10°以上になると吸着エネルギーは正の値をとるようになり,θ = 40°では2.0 eVとなった.

Figure 6.

 Potential profiles of the hydrogen adsorption to the on-top site as a function of the distance between the adsorption site and the hydrogen with various bending angles.

この結果について,炭素原子の電子軌道混成におけるNBO解析を用いて説明する.オントップサイトの炭素原子とそれに隣接する炭素原子の間の結合におけるNBO解析によると,2sと2pの寄与は,θ = 0° ,20°,40°の角度のポテンシャルエネルギーが極小のときにそれぞれ(P2s, P2p) = (0.317, 0.682),(0.297, 0.703),(0.279, 0.721)であった.これら2sと2pの比(P2p/P2s)は,spxとしての軌道混成の量xに相当し,θ = 0° ,20°,40°のそれぞれでx = 2.15,2.37,2.58である.NBO解析は,折り曲げ角度が大きくなるに従って炭素原子軌道の混成の割合が大きくなることを示している.オントップサイトの炭素原子と吸着水素原子の間の結合についても調べた.その結果,θ = 0° ,20°,40°それぞれで(P2s, P2p) = (0.049, 0.950),(0.111, 0.889),(0.201, 0.799)であった.NBO解析の結果は,Figure 6のポテンシャルエネルギー曲線がsp3混成の割合に大きく関係していることを示している.ShaとJacksonは,吸着エネルギーとRHXとの関係において同様の傾向を報告している [10].

TPD測定の結果では,HOPGでは見られない約800 Kの高い温度での重水素の脱離がCNWで観測された.計算の結果から,折り曲げたグラファイト平面への水素原子が高い吸着エネルギーをもち,そこからの熱脱離が高い温度で測定されたと考えられる.この計算結果と実験結果の定性的な一致から,折り曲げられたコロネンがCNWの中の小結晶子間の境界領域に対するよいモデルであるといえる.

Figure 7には,ホローサイトにおける様々な折り曲げ角度θのときのRHXに対するポテンシャルの計算結果を示す.計算からは,θ ≥ 30°で吸着エネルギーが正の値となり,θ = 40°で0.6 eVとなることがわかる.先行の理論的研究ではグラファイトのテラス面のホローサイトには水素が吸着できないことを論じている [9].本計算でも,テラスに相当するθ = 0°においてポテンシャルエネルギー曲線は極小とらない.NBO解析では,ホローサイトの最近接のCとそれに近接するCとの結合について,2s,2pの寄与は,θ = 0° ,20°,40°の角度のポテンシャルエネルギー極小点でそれぞれ,(P2s, P2p) = (0.316, 0.683),(0.293, 0.706),(0.286, 0.714)であった.spxとしての軌道混成の量xθ = 30° ,35°,40°でそれぞれx = 2.16,2.41,2.50であった.CとHの結合については,θ = 35° ,40°の角度でそれぞれ(P2s, P2p) = (0.057, 0.943),(0.076, 0.923)であり,θ ≤ 30°での結合軌道はみられなかった.NBO解析からは,折り曲げ角度θsp3混成の増加が正の相関を示している.ホローサイトのsp3混成の増加量はオントップサイトに比較して小さいが,ホローサイトでもポテンシャルエネルギー曲線がsp3混成の量と大きく関係していることがわかる.以上の折り曲げたコロネンの計算によって,折れ曲がった炭素平面のホローサイトへの水素吸着の可能性が示された.

Figure 7.

 Potential profiles of the hydrogen adsorption to the hollow site as a function of the distance between the adsorption site and the hydrogen with various bending angles.

5 結論

本研究では,CNWの詳細な構造をTEM観測により明らかにした.TEM像には結晶子間の境界領域にグラファイト平面の折れ曲がった構造を観測した.UPS測定からはInterlayerバンドがはっきり観測され,CNWが高いグラファイト性を有する結晶子で構成されていることを示した.他方で,カーボンナノチューブの光電子スペクトルとの類似性から σ 電子状態と π 電子状態の軌道混成を示唆する結果を得た.重水素原子が吸着したCNWのUPS測定およびそこからの重水素の脱離のTPD測定からは重水素がCNWの境界領域に高い吸着エネルギーで吸着することがわかった.折れ曲がったコロネン分子をモデルとするCNWの境界領域における水素吸着のポテンシャルエネルギーの密度汎関数法による計算を行い,折り曲げ角の増加にともない,オントップサイトおよびホローサイトの両サイトで水素の吸着エネルギーが増加する傾向を示した.NBO解析により,吸着エネルギーの増加は,吸着サイトの炭素の結合特性がsp2軌道混成からsp3軌道混成に変化することに起因することを示した.

Acknowledgment

本稿で示した研究は横浜市立大学戦略的研究推進費(G2503)の支援の下で行われた.

参考文献
 
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