Journal of Computer Chemistry, Japan
Online ISSN : 1347-3824
Print ISSN : 1347-1767
ISSN-L : 1347-1767
Letters (Selected Paper)
Mechanism Elucidation of Binding, Transport and Metabolism of Biomolecules by Computational Chemistry "Magnetic Binding of Oxygen and Carbon Dioxide by Hemoglobin and Myoglobin"
Masahiro KOHNONozomu HATAKEYAMAToshiaki KAMACHIAkira MIYAMOTO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 15 Issue 6 Pages 232-234

Details
Abstract

The existence of an energy field that dominates the physiological mechanism of incorporating O2 in the atmosphere into the human body and excreting it outside the body as CO2 was investigated using computational chemistry techniques based on quantum theory. As a result, it was revealed that the binding, transportation, and metabolism of gas molecules depend on the weak magnetic energy induced by the earth's magnetic field (H0 = 4.5 × 10−5 T). Finally, it was concluded that the mechanism of oxygen transport and Christian Bohr's proposed”Bohr effect” depend on magnetic coupling between biomolecules.

1 はじめに

大気中の酸素 (O2) は,肺胞で血液中のヘモグロビン (Hb) に結合して体内に取り込まれ,組織中のミオグロビン (Mb) に運搬され,末梢細胞に供給される.このようなO2の結合,運搬,代謝の機構は,"吸気システム” である.一方,エネルギー代謝の機構で産生した二酸化炭素 (CO2) を体外に排泄する,"排気システム” も存在する.そのため,大気中のO2 が,どのようにして体内に取り込まれ,どのような形で組織や抹消細胞まで運搬され,さらにどのようにして体外に排出されるか,などの”呼吸システム” を明らかにすることは,好気性生物のエネルギー代謝の機構を知る上で重要な課題である.しかしながら,これら呼吸システムを制御している”エネルギー場” が存在することは明らかにされていない.

O2がヒトの体内に取り込まれる機構の研究では,デンマークのクリスチャン・ボーア (Christian Bohr) が,1904年に発表したボーア効果が有名である.ボーア効果は,「炭酸ガスや水素イオン濃度が高くなると,ヘモグロビンとの結合が緩くなって,酸素が解離しやすくなる現象」のことである.この報告では炭酸ガスが重要で,試験管の実験では炭酸ガスがないので解離しにくいが,体内と同様の炭酸ガスを含んでいると酸素が解離しやすくなることを発見している [1].この現象は,本論文で提唱する「CO2とHb分子間の磁気的結合」の可能性を示唆するものである.さらに,クリスチャン・ボーアは,"酸素は,肺で肺胞のガスから血液に向かって分泌される” との理論を唱えて証明を試みている.クリスチャン・ボーアの考えは,血液や組織には"何か酸素を運ぶ機構”があって,分圧の低いガス相から分圧の高い血液相へ「能動的なエネルギー」を使って移動させるのではないかとの考えであった.しかし,この説は,1920年ノーベル生理学・医学賞を受賞しているアウグスト・クローグ (Schack August Steenberg Krogh) によって否定された.現在では,肺胞でのO2の移動は,分圧勾配による分子運動による"分子拡散”として説明されている.

本稿では,クリスチャン・ボーアによって提唱された「能動的なエネルギー」の存在を立証し,同時に,分子拡散理論を網羅した生体分子の結合,運搬,代謝の機構について提唱する.課題解決のため,生体分子の作用が磁気的な結合力 (微弱な分子間結合) で制御されているとの仮説のもとに,二つの磁気共鳴理論 [2,3]を用いた計算化学的な手法によって研究を行った.量子化学計算から導き出された結果は,"ヒトの体内に磁場で誘起されるエネルギー場” の存在を示唆しており,クリスチャン・ボーアが提唱していた「能動的エネルギーによる酸素運搬の機構」の存在を立証した新たな発見といえる.

2 計算方法

In vivo あるいはin vitroでのO2やCO2の動的な挙動を明らかにするためには,体内物質である気体分子の量的な変化 (濃度) を求めることが必要である.O2とCO2は,気体分子あるいは溶存気体,金属たんぱくに結合した状態など,さまざまな存在形態をとっている [4].そこで,大気中あるいはヒトの体内分布する気体分子の濃度を求めた.本報告では,1気圧,25 °Cにおける気体分子の量を, mmol/Lに換算し表している.さらに,反磁性物質であるH2Oと常磁性分子のO2の結合,あるいは,常磁性分子であるHbやMbとO2あるいは無極性分子である負の電荷を有するCO2との結合が磁気的エネルギーによる結合であることを立証するため,式(1),(2)に示す核磁気共鳴,常磁性共鳴の二つの理論式を使って量子化学的な計算を行い,生体分子間の磁気的結合の可能性について検証した.

陽子 (プロトン) の核磁気共鳴 (NMR) を観測するときの共鳴式は,    E(NMR) = (μn/I)H0 = γpћH0    (1)    と表され,一方,常磁性物質の電子スピン共鳴を観測する共鳴式は,    E(ESR) = (μe/S)H0 = γeћH0    (2)    で表される.式中の核磁気能率 (μn) とボーア磁子 (μe)は,それぞれ,μn = 5.05 × 10−27 J/T,μe = 9.27 × 10−24 J/Tである.プロトンの磁気回転比はγp,電子の磁気回転比はγeと表され,γp = 2.675 × 108 C/kg,γe = 1.759 × 1011 C/kgである.式(1),(2)を使って,磁場 (H0) 中に置かれた生体関連化合物の共鳴エネルギー量 (E) を求めた.

E (NMR) とE (ESR) のエネルギー計算に用いた磁場強度は,地球磁場を仮想して,H0 = 4.5 × 10−5 Tとした.地球磁場の強度は,2.5∼10 × 10−5 Tと推定されているが,本報告では,式(1),(2)を使って,クラスター構造をとるH2OとO2の磁気的エネルギー強度が一致する磁場強度から決定した.

さらに,生体物質の量子化学計算では,式(1),(2)に入力する量子パラメーターが必要となる.本計算では,二つの不対電子を有する酸素のスピン量子数 (S) をS = 1として,鉄タンパクであるデオキシヘモグロビン,デオキシミオグロビンのスピン状態を高スピン状態として,S = 2とした.一方,反磁性物質であって双極子分子であるH2O (双極子モーメント:µD = 1.84 D) が示す核スピンの量子数(I) を I = 0.92とした.さらに,CO2は極性分子ではないが酸素原子上に負の電荷を有している極性分子であり,4重極の強さは −4.2 であるため,スピン量子数をS = 2.1 として,それぞれの物質の示す磁気エネルギーの計算を行った.

3 結果と考察

Tables 1, 2には,式(1),(2)を用いて共鳴エネルギーを計算するために用いた,ヒトの体内物質 (O2, CO2, Hb, Mb) の濃度分布を示した.Table 2に示した,O2の運搬に関係するヒトの血液中のHb量を調べてみると,男性で13.5∼17.5 g/dl,女性では11.3∼14.5 g/dlである [6].Hbの平均分子量は64500であるので,Hb量を濃度に換算すると,男性は2.08∼2.69 mmol/L,女性では1.73∼2.23 mmol/Lとなる.Table 2には,男女のHb濃度の平均値を示している [5].さらに,一つのHbは4つのサブユニットからなる4量体構造をとっており,それぞれのサブユニットが中心にポルフィリンを配位子とする4つのヘム鉄 (Fe) を含んでいる.そのため,磁気的な作用を受ける鉄イオン濃度は,Hb濃度の4倍として計算している.一方,組織中のMbの研究は少ないが,平均質量は17800である.これまで報告されている心筋のMb濃度は,約25.4 g/kg(1.43 mmol/L) である [7].MbはHbとは違い,サブユニットはない.HbとMbに含まれるヘムFeのスピン状態は高スピン (S = ± 2) である.さらに,水には気体分子を溶解する性質があり,100%酸素で飽和させた超純水中の溶存酸素は,約1.0 mmol/Lである.空気を溶解させた場合の酸素濃度は,0.25 mmol/Lであった.

Table 1. Concentration distribution of O2 and CO2 related to energy metabolism of human [4,5]
Inhaled and exhaledmolecular speciesGas pressure(mmHg)Gas concentration(mmol/L)
O2 inspired from the lungs158.18.51
O2 exhausted from the lungs321.72
O2 in the alveoli1005.38
O2 in arterial blood955.10
O2 in venous blood402.15
O2 in peripheral cells2.0 – 5.00.12 – 0.26
CO2 inspired from the lungs0.30.016
CO2 in arterial blood402.15
CO2 in venous blood462.47
CO2 exhausted from the lungs1166.24
Table 2. Amounts and concentrations of bio-related magnetic compounds [6,7]
Biological substancesAmountConcentration (mmol/L)
O2 in the atmosphere158.1 mmHgq8.51
Hb concentration150 g/L2.33
Mb concentration25.4 g/kg1.43
O2 in body fluid5 mmHg0.28

Table 3に示した生体内物質の磁気的なエネルギー (ΔE)は,式(1),(2)で求めたエネルギー,E (ESR) とE (NMR)と,Tables 1, 2に示した濃度とアボガドロ数の積から求めている.Table 3に示す%表示は,血液中のHbの示す磁気的なエネルギー量を100とした時の相対%,鉄の数は,O2とCO2に結合した鉄イオンの数を示している.

Table 3. Magnetic energies of bio-related materials computed by magnetic resonance equations
Related substances of energy metabolismΔE (J/sample)Relative intensity (%)Num. of iron
O2 in the atmosphere2.14 × 10−6183
O2 inspired by quiet breathing6.46 × 10−755
Hb iron in blood1.17 × 10−61004
O2 in arterial blood1.36 × 10−61164
O2 in venous blood5.70 × 10−748.72
CO2 in arterial blood2.58 × 10−722.11
CO2 in venous blood2.05 × 10−717.51
Mb ion in muscle1.78 × 10−715.21
O2 exhausted by exhalation4.33 × 10−737
CO2 exhausted by exhalation7.77 × 10−766.4
Diamagnetic energy of H2O2.75 × 10−723.5
O2 in air-saturated water6.40 × 10−85.4
O2 in the peripheral tissue6.50 × 10−85.6

Table 3から明らかなように,ヒトが保持しているO2の呼吸システムは,自然環境 (大気中のO2濃度) に適応していることが理解される.計算結果では,大気中のO2の示す磁気的なエネルギーは,血中のHbの持つ4つのFeの示す磁気的なエネルギーの2倍であった.この計算結果は,肺組織でHbがO2と磁気的に結合し,O2が飽和状態となることを示唆している.Hbの示す磁気的な結合エネルギーの25% (一鉄分) とO2あるいはCO2の示す磁気的なエネルギー量が一致しており,CO2の運搬にも,Hbの1つのFeが関与すること示している.さらに,抹消細胞中のO2の示す常磁性エネルギーは,水分子の示す反磁性エネルギーと一致していた.HbあるいはMbの示すO2あるいはCO2の結合が磁気的なエネルギー特性に依存していることを示唆している.Hb (Fe) の示すO2の運搬機構は,ヘムFeとO2あるいはCO2の示す磁気的な結合に依存していることを示唆している.

4 結論

大気中の酸素を体内に取り込み,末梢細胞への運搬する機構と,末梢細胞からの体外への炭酸ガスの代謝機構が計算化学的なアプローチによって明らかになった.ボーア効果と呼ばれる生理学的な現象も磁気的な結合理論で説明できる.さらに,ファン・デル・ワールス力と呼ばれる分子間結合の一部が,地球磁場の下で誘起される共鳴エネルギーに依存した常磁性‐常磁性物質間,常磁性‐反磁性物質間,反磁性‐反磁性物質間の結合であることが示唆された.

参考文献
 
© 2017 Society of Computer Chemistry, Japan
feedback
Top