Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Conformational Analysis of [M(ABC)6] Complex
Hiroshi SAKIYAMATakaaki ABIKOMisaki ITOKatsushi WAKIRyoji MITSUHASHIMasahiro MIKURIYA
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2016 Volume 15 Issue 6 Pages 213-214

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Abstract

Enumeration of the conformers and conformational analysis were successfully conducted for an octahedral [M(ABC)6] complex. In this report the methods and results were briefly described. In the enumeration, 7173 conformers were found by the computational group theory method, and among them, 130 conformers were found to have stable M(AB)6 cores of S6 symmetry. The structures of the 130 conformers of [Zn(DMSO)6]2+ (DMSO: dimethylsulfoxide) were optimized by the DFT method, and the most stable conformer was obtained.

1 背景と目的

配座解析をおこなうことで,数ある配座異性体の中から正しい構造が予測できれば,実験的に構造決定できない物質についても,理論計算による諸物性の予測が可能になる.しかし配位数の多い遷移金属錯体では,配座異性体数が多いために,その数え上げと初期構造の獲得が困難になることがある.そこで我々は,コンピュータ群論法 [1]を用いて配座異性体の数え上げをおこない,密度汎関数法によって各配座異性体の構造最適化をおこなうことで金属錯体の配座解析をおこなってきた [2,3,4,5].本稿では[M(ABC)6]型(Figure 1)の正八面体型錯体[Zn(DMSO)6]2+(DMSO:ジメチルスルホキシド)の配座異性体の数え上げと配座解析についてまとめて報告する.

Figure 1.

 Structure of [M(ABC)6] complex.

2 方法

配座異性体の数え上げは結合周りの回転(Figure 1)を考慮してGAPプログラム [6]でおこなった [4].計算に用いる錯体の初期構造の作成,体積計算,対称点群への帰属はWinmostar [7] でおこなった [5].密度汎関数法(LC-BOP/6-31G [8])による構造最適化にはGAMESS [9,10]を用い,九州大学のFUJITSU PRIMERGY CX400 (TATARA)上でおこなった [5].

3 結果と考察

[M(ABC)6]型錯体において配位子の配向には典型的な二つのパターン(配位子が稜方向に伸びる場合と配位子が稜を二等分する方向に伸びる場合)があるが,本研究では結晶構造に見られる配位子が稜を二等分する方向に伸びる場合のみを考えた.GAPプログラムを用いた数え上げによって,配位子が稜を二等分する方向に伸びる[M(ABC)6]型錯体には7173の配座異性体が存在することが分かった [4].このうち,中央のM(AB)6部分が安定なS6対称になるものは,130通りであった(3 S6, 3 C3, 8 Ci, 116 C1) [4,5].これら130の配座異性体すべてについて,[Zn(DMSO)6]2+となる初期構造をWinmostarで作成し,密度汎関数法により構造最適化をおこなった [5].

最安定構造(Figure 2a) と[Zn(DMSO)6](BPh4)2結晶中の構造(Figure 2b)は異なる配座異性体であったが,最安定構造の図中下半分の配座(iv, v, vi)は結晶中でも保持されていることが分かった [5].また配座が保持されていなかった上半分(i, ii, iii)では結合角Zn-O-Sが他よりも大きくなっており,錯カチオンが結晶中に取り込まれる際に最安定構造の上半分が変形した可能性を支持している.また最安定化構造と結晶構造のいずれにおいても,亜鉛周りに複雑なひずみが生じているが [5],これは配位子(DMSO)間の水素結合によるものであることが分かった.

Figure 2.

 The most stable structure (a) and the crystal structure (BPh4 salt) (b) of [Zn(DMSO)6]2+. Dihedral angles Zn-O-S-Lp (lone pair) are shown.

錯カチオンの体積を見積もったところ,最安定化構造の体積(523 Å3)に比べて,結晶中の体積(479 Å3)はかなり小さくなっていることが分かった.これは,かさ高いテトラフェニルホウ酸イオン(BPh4)に取り囲まれることによって錯カチオンが圧縮され,体積が小さくなるように前述の変形が起こったものと考えられる.一方,BPh4イオンに比べてサイズの小さな過塩素酸イオン(ClO4)の塩 [11]では,錯カチオンの体積(511 Å3)はそれほど小さくなっていないことが分かった.また過塩素酸塩中では,ClO4イオンと配位子が水素結合することで配位子間の水素結合がなくなり,[Zn(DMSO)6]2+が対称性の高い構造(C3対称)になっていることが分かった.

今回の計算で,錯カチオンの構造には陰イオンのサイズや陰イオンとの相互作用が大きく影響していることが分かった.本成果の多くは,配座異性体を数え上げ,配座解析をおこなうことによって初めて得られるものであった.錯体のフル配座解析は,異性体数の多さゆえに敬遠されているように思われるが,群論法の利用により,今後より簡便に配座解析をおこなうことが可能になると期待できる.

Acknowledgment

本研究はJSPS科研費15K05445の助成および山形大学の運営交付金によっておこなわれた.TATARAの利用では,九州大学の稲富雄一博士にお世話になった.

References
 
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