Journal of Computer Chemistry, Japan
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巻頭言
2016年秋季年会を終えて,・・異次元の世界で!
半田 真
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2016 年 15 巻 6 号 p. A55

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早いもので,秋季年会を終えて3ヶ月が経ちました.新年を迎え,授業も再開,学生実験のレポート評価をやっと終えたのが,先ほどのこと,そこに,巻頭言忘れていますよと催促のメールで慌てて書き上げております.

錯体の合成,構造,磁気的性質を専門としてきた私には,2012年の山形大学の秋季年会から参加したコンピュータ化学会は全くの別世界でした.この度,秋季年会の実行委員長を承ることとなり,光栄でしたが,参加者の皆様方に満足していただけるものとなるのか本当に不安でした.実行委員の先生方,そして事務局からの多大なるご支援を頂きなんとか大きな問題はなく盛会のうちに学会終了となりましたが,実行委員長としては至らぬことが多々あったと反省しきりです.

さて,私ごとですが,2012年の秋季年会に参加したのは,その時の実行委員長が研究室(九大木田研)の後輩の崎山先生だったということと,ドクターの学生の時に,量子化学計算に関わったことがあり,この分野はどこまで進んでいるか,興味があったからです(懇親会で,長嶋雲兵先生に松江での開催のご指名を受けてしまったのですが,・・).私のドクターの学生というと,1985年頃に遡ることになりますが,銅(II)複核錯体の磁気的性質の研究を行なっておりました. 銅(II)イオンはd9電子配置をしており,不対電子を1個有しております.当時,イカやタコの血液中の酸素運搬体であるヘモシアニンの活性中心が酸素と結合した銅(II)状態でも反磁性であるが,これは何故かという研究が盛んに為されており,構造と磁気的性質の関係からの理解が必須とされておりました.この問題自体については,その後10年ほどで,東工大の北島先生のモデル錯体の研究などによりほぼ解決されるのですが,銅(II)イオンの架橋原子を介しての超交換相互作用に関する理解が,その後の金属錯体の構造を分子デザインして,超交換相互作用に基づき磁気的性質をコントロールし,さらに錯体を集積化して磁性体を開発する研究の発展に重要な役割を果たしていると考えられます.この磁性体開発・応用は世界的にも未だ継続されて行われている大きなテーマです.30年前,研究する複核錯体の磁性を理解するためには,一番関わりのありそうな構造部分に系統的に置換基を導入して変化させることが重要でしたが,合成ではそう上手く注文通りには行かず,悪戦苦闘していた時に頼りにしたのが,量子化学計算でした(この時,分子研の長嶋先生,古賀先生に大変お世話になりました).計算なら注目する部分を系統的に変えて理解することができます.この時は,傾向を知ることが目的で,それでも,大型計算機を使った大変な計算でしたが,現在は実測値までピタッと合わして,電子状態を理解するというすごい時代になっていることを実感しております.コンピュータ化学会春季年会・秋季年会に参加すると,いろんな視点からの様々な研究が為されていることにいつも驚かされます.コンピュータを使った最先端の研究から時代が変わっても重要で本質的な課題の研究に,なるほどと新鮮な気持ち,何か異次元の世界にいるような感覚です.

年会での一般公開など,小中高生の若い世代から市民の方までの科学の様々な啓蒙活動はコンピュータ化学会のもう一つの特徴で,今回の「科学発信!!Shimane」で見た中高生・大人の方のキラキラとした目にコンピュータ化学会の底力を改めて感じました.そんなコンピュータ化学会の秋季年会精選論文集の巻頭言まで書かせて頂いたことに光栄に心より感じております.有り難うございました.

 
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