Journal of Computer Chemistry, Japan
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技術論文
WinmostarのMOPAC計算による分子軌道モデルの3Dプリンタ用STLファイルの作成
吉村 忠与志八木 徹千田 範夫
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2017 年 16 巻 1 号 p. 22-27

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Abstract

分子モデリングソフトウェアには3Dプリンタ用STLファイルを創出するものが開発されていない.そのため,いろいろな機能を付加した研究が進む中で,Winmostarで作成できるVRML形式ファイルをBlenderでSTLファイルに変換して分子軌道モデルを3Dプリンタで作成することができた.これによって,分子軌道の3Dモデルを簡単に作成できることから,この方面でのますますの利用を期待できる.

1 はじめに

3Dプリンタがモノづくりの中で,一翼を担うようになり,あらゆる分野で利活用が検討され実用化され始めている.分子モデリングにおいても3Dプリンタの利用が検討される中,筆者らが開発リードしているWinmostar [1]に,分子モデルをSTLファイルに変換できるOpenSCADプログラミング機能を付加したことを報告した [2].これによって,ユーザーが任意に設計した分子モデルや化学教材用の分子モデルを用いて,誰でもが容易に3Dモデルを作成することができるようになった.Winmostarのみでは3Dプリンタ用STLファイルが作成できなかった頃は分子モデルを設計した後,分子座標データをもとにOpenSCADでプログラミングし,STLファイルを作成する方法 [3,4]も開発した.

分子モデリングソフトウェアは元々,VRML仕様のファイルを生成する機能を有していたが,VRMLからSTLファイルへの変換機能を有するCADソフトウェアの取り扱いが難解で,その活用が普及しなかった.筆者らはWinmostarにVRMLファイルを創出する機能を生かすことのできるCADソフトウェアを探索していたところ,3DグラフィックソフトウェアBlender [5]にその機能を見出し,分子モデルのみならず,分子を取り巻く電子密度の異なる分子軌道モデルのSTLファイルを創出することに成功したので,その技術を報告する.

2 WinmostarのMOPAC計算

Winmostarでは,複雑な分子モデル並びに分子軌道モデルを創出することができるが,本論文では,分子軌道の電子雲の形状が電子密度で異なる分子,エチレンを事例対象とする.

まず,Winmostarの初期状態で[-C2H3]と[Repl]をクリックするとエチレンが描画される.メニューのQM1→(1) MOP6W70実行で,Figure 1のようにMOPAC6の計算が開始される.計算終了後は出力ファイルがメモ帳で開かれるので,正常終了していることを確認してメモ帳を終了する.

Figure 1.

 Ethylene drawing and MOPAC calculation.

分子軌道を描くには,Figure 2のようにメニューのQM1→インポート→MO (mgf)を選択するとMopac MO Plot画面が立ち上がる.ここで,Figure 3のようにNumber of MOで6 (HOMO)を指定して[3D]をクリックする.すると,Figure 4のようにエチレンのHOMOの分子軌道が表示される.この時点で,計算を行ったフォルダーの中にtemp.wrlというVRML2.0仕様のファイルが生成されるので,ファイルエクスプローラ等で確認する.

Figure 2.

 MO (mgf) calculation by import.

Figure 3.

 Screen of Mopac MO Plot.

Figure 4.

 Molecular orbital of the HOMO of ethylene.

Winmostarは無償版でも30原子まで分子のMOPAC6計算が可能であるが,有償版を使えば30原子以上のMOPAC計算やGaussian,GAMESS等のデータ作成と起動が可能である.

3 BlenderでSTLファイル作成

Blenderはオープンソースの3次元コンピュータグラフィックスソフトウェアである.Blenderを使えばWinmostarで作成したVRML形式(temp.wrl)を3Dプリンタ用のSTL形式に変換することができる.

Blenderを立ち上げると初期状態で立方体が表示されるが,これは必要ないのでキーボードのxキーを押して削除する(Figure 5).

Figure 5.

 Initial screen of Blender.

Blenderの初期画面においてFigure 6のように,File→Import→X3D Extensible 3D (.x3d,.wrl)を選択して,WinmostarでMOPAC計算したフォルダー中のtemp.wrlを選択して[Import X3D/VRML2]をクリックすると分子軌道図が表示される.

Figure 6.

 Reading of the data file (*.wrl).

次に,File→Export→Stl (.stl)を選択して保存するフォルダーとファイル名を指定して[Export STL]をクリックするとSTL形式で保存される(Figure 7).

Figure 7.

 Creation of an STL file by Export.

さらに,File→Export→Wavefront (.obj)またはStanford (.ply)を選択すると,カラーに対応したOBJ形式やPLY形式で出力することもできる.

本論文では,Blenderの利用において英語表記を用いたが,メニューの[Transform]で日本語表記にも変更できる.

4 3Dプリンタによる分子軌道モデルの作成

上記の方法でVRMLファイルを3Dプリンタ用STLファイルに変換することができる.そこでWinmostarで,HOMOとLUMOに限ればエチレンの炭素原子の周りの分子軌道モデルを作成して,そのSTLデータを出力し,3Dプリンタでそのモデルを作成した.3Dプリンタは熱溶融積層型プリンタ,ダヴィンチの1.0 AiOを用いた.Figure 8に示すように,エチレンの炭素原子の周りは電子雲に囲まれており,分子の末端の水素は外に飛び出している.

Figure 8.

 Photos of changing the direction of the 3D molecular orbital model, LUMO (left) and HOMO (right) of ethylene.

この方法により,OpenSCADでは作成し難かった分子軌道モデルをBlenderの活用で分子が有する電子雲の形状を3次元モデルで示すことができ,文献3で示した高度で複雑な構造の分子並びに分子軌道モデルを創出できる."触って体感できる分子モデル教育<ja>"</ja>をますます充実することができ,分子モデリングに大きな期待が持てるようになった.

5 今後の展望

今回の報告ではHOMOとLUMOの出力を行ったが,本手法を用いることで,空間的な広がりを持つ様々な物理量を立体的に出力することが可能である.等電子密度面を出力したり,カラー対応の3Dプリンタがあればその表面に静電ポテンシャルをマッピングしたりするなど,CGとして作成される3D画像を手に取って観察できるようになる.

STL形式はカラーには対応していないが,電子状態の表現にカラーが使えれば,より多彩な表現が可能になるので,カラー対応の3Dプリンタも想定して機能強化を検討したい.Winmostarは固体物理計算にも対応しているので,固体中の電子状態の3Dモデル化を試みたい.

References
 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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