Journal of Computer Chemistry, Japan
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巻頭言
あれから30年
時田 澄男
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2017 年 16 巻 1 号 p. A1

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Professor emeritus John Takashi Shimozawa.

みなさまに,残念なお知らせをしなければなりません.日本コンピュータ化学会の前身である化学ソフトウエア学会ならびに化学PC研究会の会長を,長い間おつとめくださった下沢隆先生(埼玉大学名誉教授)が,2016年9月23日,ご逝去されました.86歳でした.謹んでご冥福をお祈り申し上げます.

下沢先生と化学PC研究会との繋がりが緊密になった時はいつ頃かとつらつら想うと,それは,1987年に遡ることができます.今からちょうど30年前,埼玉大学で化学PC研究会の討論会が開催され,下沢先生が実行委員長をおつとめ下さいました.下沢研究室の黒石佳伸先生のご尽力もあり,お蔭様で盛会裏に進めることができました.

この頃のコンピュータ化学を取り巻く状況は,風雲急を告げる雰囲気でした.1981年には,CBI研究会(Chem-Bio-Informatics Association)という,計算化学などを医薬品の開発などに役立てることを目的とした組織が起ち上げられ,2000年には,CBI学会となっています.ここで配布された種々のソフトウエアは,企業や大学などで大いに利用されたようです.1983年には,日本化学会の中に,情報化学部会が発足し,1989年には,JCPEという組織が,大澤映二先生,田辺和俊先生のご尽力により発足しています.1985年には,下沢先生のご尽力により,日本化学会の化学教育部会の中に,教育工学検討委員会が設置されています.委員には,細矢治夫先生,吉村忠與志先生らのお名前が見受けられます.

この頃,吉田弘先生らは,分子モデリングに関する有用なソフトウエアを発表されています (K. Ogawa, H. Yoshida, H. Suzuki, J Mol. Graphics, 2, 116 (1984)).当時は,新しいソフトウエアの開発はどれもが斬新で,公表の価値があるものが輩出しておりました.しかし,それを発表する国内の学術誌は無いに等しいという状況でした.このような情勢の中,化学PC研究会は,下沢先生のご尽力のお蔭で,1992年より,化学ソフトウエア学会として再出発し,学会誌 Journal of Chemical Software を発刊することが出来ました,.オリジナルソフトウェアを発表する学会誌がいよいよ誕生したことになります.2002年には,JCPEと化学ソフトウエア学会が合体して,新たに,日本コンピュータ化学会が発足し,学会誌 Journal of Computer Chemistry, Japan を発刊して,現在に至っています.

1988年,Tetrahedron Computer MethodologyというJournalが発刊されました.化学系で最初の電子ジャーナルであるばかりでなく,印刷体や電子媒体(フロッピーディスク)での配布も併用したユニークなものでした.佐々木慎一先生,船津公人先生,岡田孝先生,谷中幹郎氏 (後の呉羽化学工業(株)生物医学研究所長)の論文も掲載されています.華々しく登場した企画でしたが,1990年度版を最後に廃刊となりました.このように,学会誌や商業誌の廃刊は日常茶飯事です.

しかし,本学会のJCCJ誌は,最近,International Editionを刊行するなど,益々の発展を見せていて,国際貢献を信条とした下沢先生の期待に応えていますことは,心強い限りです.このことは,ひとえに,長嶋雲兵事務局長(現副会長)と,後藤仁志事務局長のご尽力によるものと感謝しております.また,編集にボランティア的に携わる太刀川達也先生,中村恵子さん,JPPの佐藤博さん,英文チェックを長年ご担当のBrian Newbold先生にも感謝しなければならないと思っております.

このような発展の礎を築かれた下沢先生にもう一度感謝の念を述べさせていただき,あわせて,お忙しい中,追悼文をお寄せいただいた先生方にも御礼申し上げて筆をおきたいと思います.     合掌

 
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