Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
GAPシステムを用いるベンゼン異性体の数え上げの簡略化
藤田 眞作
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2018 年 17 巻 3 号 p. 142-143

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Abstract

After the development of a GAP command for calculating cycle indices with chirality fittingness (CICFs), benzene derivatives have been enumerated as 3D molecular entities.

1 はじめに—目的

与えられた骨格の置換位置にリガンドを置換させて,生じた立体異性体の個数を求め る方法として,筆者は,USCI 法 [1], 曼荼羅法 [2],プロリガンド法 [3],およびステレオイソグラ ム法 [4]を開発して,モノグラフとして公刊してきた.とく にプロリガンド法は, グラフの数え上げに使われるポリアの 方法 [5,6] を拡張したものにあたる.

プロリガンド法では,「キラリティをもつが大きさは考えない」というプロリガンドの概念 に基づいて,鏡映操作で,キラリティー値が入れ替わるとみなして数え上げをおこなう. このため, 四面体分子CABp p - (A, B はアキラル, p/ p - は分離した状態でエナンチオマー対) ではアキラルな分子2 個(Cs 点群) としなければならない.

GAP システムは,コンピューターで群論を取り扱うため にいろいろなコマンドを用意しているが,組合せ論の立場 からみると,主として置換群を重視している.筆者は,上 記のような点群に基づく組合せ論を取り扱うために, 結合置換表現(combined-permutation representation CPR) を工夫した [7]. CPRは,通常の置換(1...n)に加えて,鏡映操作を あらわすための新たな置換(n+1n+2)を追加したものである. このことにより, CI-CF (Cycle Indices with Chirality Fittingness) を計算するためのGAPプログラムを開発することができた [8,9].

今回は,このGAPプログラムを,ケクレベンゼン, ラーデンブルグベンゼン, デュワベンゼン,ベンズバレン (Figure 1) の誘導体の数え上げに適用した結果を報告する.

Figure 1.

 Valence-bond isomers of benzene

2 方法と結果

2.1 結合置換表現(combined-permutation representation CPR)のGAPによる取り扱い

ベンゼンのケクレ構造 1sの6個の置換位置に1から6の通し番号をふる(Figure 2). 鏡映操作を考えない場合の点群は,D6であり, GAPのGroup命令を用いて,生成元(generators)を指定して構成すると次のようになる. ただし,行頭のgap>は,GAPシステムのコマンドプロンプトである.位数は12であり,具体的な置換をElements命令により求め,elm-D6の行に示した.

Figure 2.

 Combined-permutation representation of benzene

ベンゼン骨格の場合は,通常の置換表現を用いると,裏表を入れ替える覆転と鏡映を区別できない.例えば置換(2 6)(3 5)は,頂点1と4を通る軸を回転軸とする回転C2 (1)と,頂点1と4を含む鏡映面による鏡映σvを区別できない(Figure 2).

鏡映を含むD6hを取り扱うには,生成元として鏡像置換(7 8)(σh)を追加する.位数24のD6hは,次のように 構成することができる.elm-D6hの行に示した置換のうち,鏡像置換(7 8)を含む置換は,すべて鏡映操作の置換表現である. 例えば,(2 6)(3 5)(7 8)は,σvに相当する.

2.2 GAPによるCI-CFの計算

結合置換表現(CPR)からCI-CFをもとめるためのCalcConjClassCICF命令をGAPシステムに基づいて開発した.この命令をおさめたファイル CICFgenCC.gapfunc を作成して,そのソースリストを文献 [10]に掲載している.このファイルを適当なフォルダー(c:/fujita00/fujita2017-2/toronkai/ ccs/18haru/gap) に格納する.Read命令で, CICFgenCC.gapfuncを読み込み,CI-CFの計算をおこなう.D6hについては,次に示す通りである.

この計算結果を,通常の記法に書き直せば,次のようになる.   

CI-CF ( D 6 h , $ d ) = 1 24 b 1 6 + 1 24 a 1 6 + 1 8 b 1 2 b 2 2 + 1 8 a 1 2 c 2 2 + 1 6 b 2 3 + 1 6 c 2 3 + 1 12 b 3 2 + 1 12 a 3 2 + 1 12 b 6 + 1 12 c 6 (1)
ただし,adは,ホモスフェリックなd-巡回, cdは,エナンチオスフェリックなd-巡回, bdは,ヘミスフェリックなd-巡回である.

2.3 数え上げ

リガンド倉庫として次の集合をえらび,ここから6個のリガンドを選ぶ.   

L 3 D = { A 1 , A 2 , , A 6 ; p 1 , p - 1 , p 2 , p - 2 , , p 6 , p - 6 } , (2)
ただし,大文字Aiはアキラルなリガンドあらわし, 小文字の対 p i / p ¯ i はエナンチオマー対をあらわす. d-巡回は,そのスフェリシティに応じて,アキラル/キラルのリガンドを収容するので, リガンド在庫式はつぎのようになる.   
a d = i = 1 6 A i d (3)
  
c d = i = 1 6 A i d + i = 1 6 p i d / 2 p - i d / 2 (4)
  
b d = i = 1 6 A i d + i = 1 6 ( p i d + p - i d ) . (5)
式2–式5を式1に代入して,展開する.展開した式の 各項の係数が,対応する誘導体の個数となる. そのほかのベンゼンの原子価異性体についても,同様の手順で 誘導体の個数を勘定することができる.

参考文献
 
© 2018 日本コンピュータ化学会
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