Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
FMO法によるエストロゲン受容体のリガンド結合特異性解析
関 祐哉加藤 司古石 誉之福澤 薫米持 悦生
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2018 年 17 巻 3 号 p. 160-162

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Abstract

There are two subtypes (α, β) in the estrogen receptor (ER), and ERβ has binding selectivity for phytoestrogens. It is known that only two hydrophobic amino acid residues (Met336Leu and Ile373Met) differ in ligand binding pocket between subtypes. However, the mechanisms of its binding properties and subtype selectivity have not been fully understood. We evaluated the subtype selectivity by comprehensively analyzing the complex of ERβ and ligands based on the fragment molecular orbital (FMO) method. By comparing the interaction between ligand and amino acid residues of ER, it was revealed that both hydrogen bond with Glu305 and CH/π interaction with Phe356 were essential for ligand binding of ERβ, and stable interaction with Met336 and His475 would be related to β selectivity.

1 背景と目的

エストロゲン受容体(ER)には2つのサブタイプ (α, β) があり,内因性リガンドである17β-Estradiol (EST) には共に強く結合するものの,Genistein (GEN) などの植物エストロゲンとの結合には数十~数百倍のβ選択性があることが知られている.ERと種々のリガンドとの複合体構造はX線結晶構造解析によって明らかにされており,サブタイプ間におけるリガンド結合ポケットは2つの疎水性アミノ酸残基 (Met336, Ile373) のみが異なっていることがわかっている (Figure 1) .しかしその結合特性やサブタイプ選択性のメカニズムについてはまだ十分にわかっていない.

Figure 1.

 Superposition of ERα- GEN complex (1X7R: magenta) and ERβ- GEN complex (1QKM: gray).

本研究ではフラグメント分子軌道 (FMO) 法 [1] を用いて,ERβとリガンドとの複合体構造を網羅的に解析しその相互作用エネルギーと結合様式を検討することで,サブタイプ選択性を評価した.

2 モデリングおよび計算方法

ERβとリガンドとの共結晶構造が公開されている20個の複合体構造をProtein Data Bankからダウンロードし,統合計算化学システムMOEを用いて①アミノ酸配列長を統一,②欠損残基の補完,③リガンドとアミノ酸残基の水素付加,④結晶水のうちERβとリガンドの結合を架橋している1分子のみを選択,⑤Amber10:EHTによる構造最適化,の順にモデリングした.

FMO計算は京コンピュータを用いてABINIT-MPプログラムによりFMO2-MP2/6-31G*レベルで行った.計算結果から,相互作用エネルギー (IFIE, PIEDA [2] [3]) に基づいてリガンド結合性を解析した.またVISCANA (Visualized Cluster Analysis of Protein-Ligand-Interaction) [4] を用いてアミノ酸残基との相互作用エネルギーに基づいたクラスタリングを行った.

3 結果

ESTやGENとERα/βの各アミノ酸残基との相互作用について検討したところ (Figure 2) ,Glu305, His475は安定な静電相互作用エネルギー (ΔEES) を示し,Ala302, Met336, Leu339, Phe356, Ile373は安定な分散相互作用エネルギー (ΔEDI) を示した.このことからGlu305とHis475は水素結合を形成し,5つの疎水性アミノ酸残基はCH/π相互作用をしていることがわかった.特にGENにおける His475との水素結合距離がERβでは短くなっており (α:2.1Å,β:1.7Å) ,ΔEESもERβで15kcal/mol安定化していることから,His475がGENのβ選択性に影響することが示唆される.さらにΔEDIに対しては,ERβにおけるMet336との値がERαにおけるLeu384の値より2.5 kcal/mol 安定な値となった.これはサブタイプ間でのアミノ酸残基の変異によって,Met336のメチル基とリガンド間の芳香環との距離が縮まったためと考えられる (Figure 1矢印) .一方で,Ile373とリガンドとの相互作用エネルギーは,GENよりもむしろESTのときに安定化することがわかった.以上のことを総合すると,His475, Met336, Ile373 がサブタイプ及び化合物との結合に特異的に関与することが示唆される.

Figure 2.

 PIEDA interaction energy component of amino acid residues with ligands: electrostatic energy (upper ; ΔEES) and dispersion energy (lower; ΔEDI).

次にERβとリガンドの20個の複合体構造についてVISCANAにより網羅的に相互作用パターンの解析を行い,アミノ酸残基との結合様式によってリガンドのクラスタリングを行ったところ,His475との静電相互作用の強さによってグループに分かれ,結果としてHis475と安定な相互作用をするI,His475とやや安定な相互作用をするII,His475と相互作用をしないIIIの3つのクラスターに分類された (Figure 3) .クラスターの分岐点を図中の印で示し,黄色はHis475との静電相互作用の有無による分岐,青色はHis475との静電相互作用の強弱による分岐を示す.また,ChEMBLに収載されている活性値 (IC50)と照らし合わせたところ,Iは比較的β選択性が高く (fold selectivity for ERβ = 32.3) ,IIは比較的β選択性が低い (fold selectivity for ERβ = 19.3) ことがわかった.さらに,リガンド結合エネルギーの平均値はI,IIでそれぞれ −113.5kcal/mol, −103.0kcal/molであった.IにはGENが含まれ,IIにはESTが含まれていたことから,GENが高いβ選択性を持つことが裏付けられる結果となった.次に各クラスターにおける特徴を比較したところ,すべてのクラスターにおいてGlu305との水素結合およびPhe356とのCH/π相互作用が見られた.Figure 1においてリガンドの左側に位置するこれらの相互作用は,リガンド結合に必須であることがわかった.同様にリガンドの右側に位置するHis475, Met336との相互作用はクラスターI,II間で異なっており,β選択性に関わることが示唆された.

Figure 3.

 VISCANA for the interaction between the estrogen receptor and the ligand.

4 結論

今回の計算結果から,ERβのリガンド複合体において安定な水素結合の形成に重要な 2 つのアミノ酸残基と,安定な CH/π相互作用の形成に重要な 5 つの疎水性アミノ酸残基がわかった.それらのうち,リガンドとの相互作用に必須なアミノ酸残基とβ選択性に関わるアミノ酸残基が抽出できた.また相互作用のパターンによって分類されたクラスター間では,β選択性の高さに違いが見られた.高いβ選択性をもつリガンドのドラッグデザインには今回抽出されたアミノ酸残基との相互作用を考慮することが重要であると考えられる.

Acknowledgment

本研究の一部は,FMO創薬コンソーシアム (FMODD) の活動の一環として実施された.本研究はスーパーコンピュータ「京」を利用した(課題番号:hp180147) .PIEDA計算にはMIZUHO/BioStationを用いた.

参考文献
 
© 2018 日本コンピュータ化学会
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