2019 Volume 18 Issue 3 Pages 156-158
To improve the solubility of poorly water-soluble drugs, molecular complexes such as co-crystals and salts have been used. However, the huge number of combinations of drug substances and co-crystal former (coformer) makes experimental screening too expensive. In this study, with the subject of irsogladine maleate [1] whose crystal structure has already been reported, we investigated the predictability of the crystal structure using the computational method. In the experiment on irsogladine-maleic acid complex, single crystal X-ray structural analysis, powder X-ray diffraction (PXRD) method, and Fourier transform infrared spectroscopy (FT-IR) measurement have already been performed; lattice constant and interaction site were known and it is known to be a salt crystal. We used CONFLEX software and MMFF94S force field parameters for crystal structure prediction. As a result, it was possible to obtain a crystal structure consistent with the experimental structure.
難水溶性薬物の溶解性改善の手法として,共結晶や塩などの分子複合体化が挙げられる.しかし,原薬と共結晶形成剤(コフォーマー)の組み合わせ数は莫大であり,実験によるスクリーニングでは多くのコストがかかるため,計算科学による効率化に期待が寄せられている.本研究では,既に結晶構造が報告されているイルソグラジン‐マレイン酸を題材として(Figure 1),計算科学を用いた結晶構造の予測可能性について検討した.尚,イルソグラジン‐マレイン酸複合体については,単結晶X線構造解析,粉末X線回折測定(PXRD),フーリエ変換赤外分光法測定 (FT-IR) 等の実験が行われている [1].
Structures of irsogladine and maleic acid
結晶構造予測ソフトにはCONFLEX [2],力場パラメータはMMFF94Sを用いた.計算手順をScheme 1に示す.まずFT-IR測定結果から,イルソグラジン-マレイン酸はイオン型の塩であることが確認されたため,イオン型のペア構造をChem Drawで描き,構造最適化した(①).最適化構造を初期構造とした配座探索結果に対して水素結合(シントン)が適切であるかどうかの確認を行い,候補構造を絞った(②).次に,得られた候補構造を初期構造として結晶構造探索を行った.探索結果に対して,シントン形成の有無,PXRD類似度,結晶エネルギー,密度,長周期構造の有無により評価し(②~④),正解構造とのRMSD値を算出した(⑤).
Procedure of crystal structure prediction
配座探索の結果,2つの配座が得られた.どちらの配座もシントンを形成していたが,エネルギー順位1位の配座ではマレイン酸が平面構造であるのに対し,2位の配座で曲がっていた.分布確率は1位の配座が100%であったため,1位の配座を結晶構造予測の初期構造として用いた.
続いて結晶構造探索の結果,400個の予測構造が得られた.そのうちシントン形成の有るものを選んだ結果,367構造に絞られた.これらに対して,PXRD類似度,結晶エネルギー,密度により順位付けを行った (Table 1).
PXRDによる順位付けの結果では,PXRD類似度1位の構造(Figure 2b)と実験構造(Figure 2a)のパウダーパターンはほぼ一致していた.
Powder pattern of (a) X-ray crystal structure and (b) predicted crystal structure of irsogladine maleate.
次に密度による順位付けを行った.密度1位の構造はエネルギー的に不安定であるため,実質的に最高順位の2位(1.49 g/cm3)と,例えば15位 (1.45 g/cm3) とを比較すると,前者にはvoidがないのに対し,後者にはvoidができている様子がわかる(Figure 3).
Predicted structures with the (a) highest molecular density score and (b) 15th molecular density score. Yellow area represents void.
これらの順位付けでは,それぞれが必ずしも同じ傾向を示さないことが分かる.従って,各順位番号の総和を取り,小さいものから順に総合順位を付けた (Table 1).
総合順位上位20個の構造について,長周期的な水素結合の有無による評価を行った.そのうち12構造が長周期構造を持っていたが,総合順位1位の構造以外は長周期構造を形成する非対称単位数や相互作用部位が異なっていた.総合1位の構造(Figure 4b)は,実験構造(Figure 4a)と同様に4つの非対称単位と8本の水素結合からなる長周期構造を有しており,結合距離もほぼ一致していた.
Long period hydrogen bonding network for (a) X-ray crystal structure and (b) predicted crystal structure.
複合体10個分のRMSD算出を行った結果,総合順位1位の構造はRMSDが0.448Åであり,構造予測コンテストの判定基準が0.8Å以内であったことを考えると [3],今回の予測構造は実験構造と一致していたといえる.但し水素結合距離に関しては,Figure 5に示すように,予測構造の方が実験構造よりも0.2Åほど短く,その結果全体的にわずかな歪みが生じていると考えられる.
(a) X-ray crystal structure and (b) predicted crystal structure of irsogladine − maleic acid complex.
CONFLEXによるイルソグラジン‐マレイン酸塩の結晶構造予測によって実験構造を再現することができた.特にシントン形成は精度高く予測できることが分かった.本複合体のように,自由に回転できる結合が少ない構造では,PXRDやFT-IR結果を併用することで,精度高く結晶構造を予測できることが分かった.今後,力場パラメータの調整により,結晶内のわずかな歪みを補正できる可能性がある.