Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Construction of Band Gap Prediction Model for π-conjugated Polymers Using Aromatic/Quinoid and Donor/Acceptor Properties
Yoshihiro HAYASHISusumu KAWAUCHI
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2019 Volume 18 Issue 5 Pages 224-226

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Abstract

A band gap prediction model of π-conjugated polymers was constructed using aromatic/quinoid, donor/acceptor, and torsion properties to predict quantitatively the band gap of π-conjugated polymers from properties of monomers. Quinoid stabilization energy (QSE), energy difference between HOMO of donor and LUMO of acceptor, torsion angle in homo-dimer of monomers were used as descriptors of aromatic/quinoid, donor/acceptor, and torsion properties. The neural network, which was constructed by 2 hidden layers with 5 neurons per layer, quantitatively predicts (RMSD = 0.207 eV, R2 = 0.885) the band gap of the π-conjugated polymers from descriptors of monomers.

1 研究背景と目的

高分子半導体の特性はそのバンドギャップに強く依存する.狭バンドギャップ高分子の設計指針には,結合交替を小さくするために芳香環型とキノイド型の中間的構造を目指すアプローチ [1, 2]と,ドナー・アクセプターを組み合わせるアプローチが提案されている.近年では,両アプローチを組み合わせて設計された狭バンドギャップ高分子も合成されている [3].狭バンドギャップ高分子は共重合体として設計されることが多いが,例えば100種のモノマーの組み合わせからは4950種の共重合体が考えられるため,モノマーから得られる記述子を用いて設計できることが望ましい.モノマーのHOMOとLUMOを記述子として用いるドナー・アクセプターのアプローチに対して,芳香環型とキノイド型の中間的構造を目指すアプローチでは,モノマーから得られる記述子はこれまで存在せず,高分子の結合交替に基づく記述子が用いられており [2],設計に適したものではなかった.そこで我々は,Figure 1に示すモノマーのホモデスモチック反応を用いた,芳香族・キノイド性のバランスを表す記述子であるQuinoid Stabilization Energy (QSE) を開発した [4].QSEは共重合体のバンドギャップを定性的に予測することができ,狭バンドギャップを発現するために最適なモノマーの組み合わせを選ぶことを可能とする.また,QSEは簡便な量子化学計算から算出できるため,マテリアルズ・インフォマティクスへの応用にも適している.

Figure 1.

 Definition of QSE by the homodesmotic reaction of a dimethylated monomer with oligo (acetylene) (n = 8).

π共役系高分子のバンドギャップの定量的予測のために,芳香族・キノイド性だけでなくドナー・アクセプター性や高分子鎖のねじれを考慮する必要がある.そこで本研究では,これらのモノマー特徴量を考慮した交互共重合体のバンドギャップ予測モデルをニューラルネットワークにより構築した.

2 計算方法

量子化学計算にはGaussian 16を用いた.各種モノマーの特徴量(QSE, HOMO, LUMO, ねじれ角)の計算にはωB97X-D/6-311G (d,p)レベルを,高分子のバンドギャップの計算には1次元PBC計算でB3LYP/6-31G (d,p)レベルをそれぞれ用いた.

3 結果と考察

交互共重合体のバンドギャップ予測モデルをニューラルネットワークにより構築するために,まず,芳香族・キノイド性,ドナー・アクセプター性,及びモノマーユニット間のねじれを表す記述子の検討を行った.

まず,芳香族・キノイド性を表す記述子として,Figure 1に示したホモデスモチック反応のエネルギー変化であるQSEを用いた.QSEが正の値であれば, 高分子化したときに芳香族型構造をとり,負の値であればキノイド型構造をとることを示している.ホモポリマーのバンドギャップの計算値を,QSEに対してプロットするとQSE = 0付近でバンドギャップが最低となるV字型の相関が得られる [4].さらに,交互共重合体のバンドギャップは,構成するモノマーのQSEの平均値(QSECO)を用いることで,QSE = 0付近でバンドギャップが最低とるV字型の相関が同様に得られる.この相関から,QSECOの絶対値(|QSECO|)を交互共重合体の芳香族・キノイド性を表す記述子とした.

加えて,過去の研究より,QSEはモノマーユニットのπ電子数に依存するサイズ効果があることがわかっている [4].よって,QSEのサイズ補正となることを期待し,モノマーユニットのπ電子数(Nπ)を記述子に加えた.

次に,ドナー・アクセプター性を表す記述子を検討した.ドナー・アクセプターの考えでは,バンドギャップはドナーのHOMOとアクセプターのLUMOの準位差に支配される.そこで,交互共重合体のドナー・アクセプター性は,2つのモノマーの内,より高いHOMO準位とより低いLUMO準位の差(Δε)を用いることが適切である.ここで,過去の我々の研究から,ドナー・アクセプターの考えは,芳香環型高分子には適用できるが,キノイド型の高分子では破綻することが示されている [4].そこで,ドナー・アクセプター性を表す記述子ΔεDAとして,QSECO ≥ 0でΔεDA = Δε,QSECO < 0でΔεDA = 0としたものを作成した.

モノマーユニット間のねじれを表す記述子の検討を行った.ユニット間のねじれやすさを表すために,モノマーのホモ二量体のユニット間ねじれ角φを考えた.ホモポリマーでは,モノマーのφが大きいほどモノマー同士の立体反発によりユニット間ねじれは大きく,φが小さいほど平面構造をとりやすい.このφが大きいモノマーと小さいモノマーの共重合体では,モノマーユニット間のねじれは小さくなった.即ち,2つのモノマーのいずれかの立体反発が小さい場合,コポリマー中のユニット間のねじれが小さいことを意味する.このことから,交互共重合体のモノマーユニット間のねじれを表す記述子として,2つのモノマーのより小さい方のφ(φsmall)を考案した.

以上の4つのモノマー記述子(|QSECO|,Nπ,ΔεDAφsmall)を用いて,交互共重合体のバンドギャップを予測するニューラルネットワークの構築を試みた.活性化関数にはtanhを用いた.いくつかの隠し層数とニューロン数を試したところ,ニューロン数5つずつの隠し層2層以上で推定精度の向上がほぼ見られなかったため,このニューラルネットワークを用いた.179個の交互共重合体について,10分割交差検証を用いたバンドギャップ推定の結果をFigure 2に示した.僅か4つの記述子と隠し層2層の簡素なニューラルネットワークでありながら,バンドギャップのDFT計算値に対してRMSD = 0.207 eV, R2 = 0.885の良好な推定精度が得られた.これは物理的に意味のあるバンドギャップ支配因子を適切に選択し,記述子として用いたためと考えられる.また,|QSECO|を記述子から取り除くと,バンドギャップの推定精度はRMSD = 0.409 eV, R2 = 0.551へと大幅に悪化する.このことから,我々が開発したQSEは,π共役系高分子のバンドギャップ推定に対して非常に有用な記述子であることが示された.

Figure 2.

 Band gap prediction by neural network using 4 descriptors of monomer.

謝辞

本論文の計算は東京工業大学のTSUBAME3.0と自然科学研究機構計算科学研究センターのスーパーコンピュータを用いた.研究費を補助していただいたJSPS 科研費 (JP17H06092, JP17K17720)に深謝する.

参考文献
 
© 2019 Society of Computer Chemistry, Japan
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