Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Structural Analysis of Water/Sodium Silicate Glass Interface Model by Molecular Dynamics Simulation
Keisuke HOSHINONaoya SAWAGUCHI
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2019 Volume 18 Issue 5 Pages 244-247

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Abstract

Weathering of glass is a problem because it degrades the optical performance of the glass. The weathering occurs when the glass has been contacted with water in the long-term. In this work, a water/glass interface model was prepared and molecular dynamics simulation was performed to investigate the structure and properties near the water/glass interface. The broken surface of the glass network at near the interface was confirmed by the distribution change of the Qn species, and it suggests that the sodium ions are trapped by the destabilized glass surface structure.

1 目的

酸化物ガラスの表面に水が長期間接触すると表面が変質し’ヤケ’が生じる [1]. ’ヤケ’はガラスの光学的性能, 表面機能を劣化させガラス製品の寿命を縮めるため問題とされている. ’ヤケ’のメカニズムはガラスの成分のうち修飾陽イオンであるナトリウムイオンやカルシウムイオンが表面へ移動し, それと平行して水の解離により生じたイオンがイオン交換によりガラス内へ侵入することで生じると考えられている [2]. 水/ガラス界面で生成された修飾陽イオンの水酸化物と大気中の二酸化炭素が反応するとガラス表面を白くする’白ヤケ’が生じ, ガラス内のイオンが水中に流れ出た場合はガラス表面と内部での屈折率の違いにより’青ヤケ’が生じると考えられている. 同様のイオンの浸出は高レベル放射性廃棄物を封入した固化体ガラスと水が接触した場合にも懸念されている [3]. 以上より, 水がガラスに及ぼす影響とイオンの浸出のプロセスについて明確な知見を得ることは重要だと考えられる. 本研究では, x Na2O-(1−x)SiO2ガラスを対象とし, 分子動力学(MD)法を用いて水/ガラス界面モデルの作成と界面近傍の構造解析を試みた.

2 方法

本研究では, (1), (2)式に示すSakumaら [4]の原子間相互作用を用いた.

2体間相互作用 :   

Uij(rij) zizje24πε0rij+f0(bi+bj)exp(ai+ajrijbi+bj)cicjrij6+D1ijexp(β1ijrij)+D2ijexp(β2ijrij)+D3ijexp(β3ij(rijr3ij)2)  (1)

3体間相互作用 :   

Uijk(θijk, rij,rjk) = {cos[2(θijkθ0)]1}(k1k2)12,  (2)
  
k1 = 1exp[gr(rijrm)]+1,
  
k2 = 1exp[gr(rjkrm)]+1

ここで, rijはイオンi, j間の距離, ziはイオンiの点電荷, eは素電荷, f0は定数(48.816 kJ nm−1 mol−1), aibiはBorn-Mayer型斥力項の変数, ciはvan der Waals力項の変数, D1ij, D2ij, D3ij, β1ij, β2ij, β3ij, r3ij は共有結合力項の変数である. θijkは原子i-j-k間の角度, θ0, gr, rmは3体間力項の変数である. xNa2O-(1−x)SiO2ガラスには, Yamamoto ら [5]の設定した値を用い, 水には, Kawamura [6]の設定した値を用いた. ソフトウェアはMXDORTO [7]を用いた.

ガラス層は次のように作成した. 3000 Kにおいて初期密度 1.3 g・cm−3となるように組成xNa2O-(1−x)SiO2 ( x = 0~0.5)を各イオン(2475粒子)をランダムに配置した. 3次元周期境界条件を適用し, 冷却速度5.0 K / psで300 Kまで降温, 緩和するプロセスを設定温度を300 K ずつ下げて繰り返した. 得られた構造をc軸方向に2倍しバルクガラスモデルとした. ガラス表面モデルは, バルクガラスモデルを切断しc軸方向に0.5 nmの真空領域を追加して得た. その際, 切断に伴い生じた1~2配位のケイ素と単体の酸素を除去した後に, 3配位ケイ素に対して四面体構造を形成する位置に酸素を付加した. その後, c軸方向から表面深さ0.7 nmまでに存在する非架橋酸素に水素を付加した. 水モデルはガラス表面モデルのa, b軸方向のセル長さに合わせ, 密度1.0 g・cm−3となるように水9000 分子に相当する酸素と水素をランダムに配置し300 K で緩和計算を行った. 水層内の化学種はO2−:OH:H2O:H3+O = 0.50:20.7:65.0:13.8の比率となった. ガラス表面モデルのc軸方向からこの水モデルを接合し, ガラス中のナトリウムイオンの位置を固定した状態でNPT アンサンブル下で圧力は0.1 MPa, 温度は300 Kで一定とし刻み時間は0.4 fsで緩和計算を行い,水/ガラス界面モデルの初期構造を得た.水/ガラス界面モデルの総粒子数は31834 ~ 32122となった.ナトリウムイオンの固定を解除しもう一度, 緩和計算を80 psまで行った. その後, 解析用のMD計算を84 psまで行った. Figure 1に水/ガラス界面モデルの構造を示す.

Figure 1

 Initial structure of water/glass interface model (x = 0.4).

3 結果と考察

Figure 2 にバルクガラスモデルと水/ガラス界面モデルについて架橋酸素の数n (n = 0 ~ 4)で分類したSiO4四面体ユニットの存在比Qnを示す. バルクガラスモデルについては, NMRのQnの増減傾向 [8]を再現した. 界面モデルではバルクモデルに比べて, x = 0.0 ~ 0.2ではQ4は減少し, Q3 ~ Q2が増加, x = 0.3 ~ 0.4では, Q4~ Q3は減少し, Q2 ~ Q1が増加, x = 0.5では, Q4 ~ Q2は減少し, Q1 ~ Q0が増加した.

Figure 2

 Qn ratio in bulk glass model (solid lines), interface model (dashed-dotted lines) and NMR experimental data (broken lines) at 300 K.

Figure 3に水/ガラス界面モデルの界面に平行してc軸方向に0.25 nm幅の層に区切り求めたガラス内のQn(d)の空間分布を示した. ここでQn(d)は各層に存在するSiO4四面体ユニットの分率で, dはガラス層界面からの距離であり,   

d=0Glass thicknessn=04Qn(d)=100 (3)
で定義した.

Figure 3

 Spatial distribution of Qn(d) species at 300 K, at 84 ps : x = 0.0 (a), x = 0.1 (b), x = 0.3 (c), x = 0.4 (d).

Figure 3(a)では, ガラス内部から界面に近づくにつれ, Q4がQ3, Q2に変化している. d = 0.50 nmで急激な変化がみられる. これらは, ガラスの表面を作成することにより生じた構造であり, Fig.3(b~d)にも同様の構造変化が確認できる. Q3, Q2が多いことは, 界面に近づくほどガラスの網目構造が切断され不安定化していることを示唆している. 一方, バルクガラスにおいてはQ3, Q2は周辺のナトリウムイオンによって安定化していると考えられる. 従って水/ガラス界面近傍で網目構造が途切れた不安定な構造も陽イオンにより安定化するとガラス内部から浸出しようとするナトリウムイオンを拘束されることが考えられる.

Figure 4に各組成のモデルで, ガラス内部に侵入した水分子の数を界面の面積当たりの値で示した. x = 0.0では,非架橋酸素の数が少ないため極性分子である水分子は浸入しにくいことが考えられる. x = 0.0を基準として考えると, 水分子の浸入量はx = 0.1 ~ 0.2で増加し, x = 0.3 ~ 0.4では水分子の浸入を阻害するナトリウムイオンが多いためx = 0.0と同程度の値であると考えられる.

Figure 4

 Amount of water molecules permeated in glass, Pwater at 300 K, between 80 to 84 ps.

本研究では, 水層へ1 ~ 3個のナトリウムイオンが浸出したことを確認した. ナトリウムイオンの総量に対して浸出量が微量であったのは, ガラス内部から浸出しようとするナトリウムイオンがガラス表面の構造で拘束されている可能性と, 84 ps程度のシミュレーションでは傾向が顕著に現れなかった可能性がある. そのため, 長時間のシミュレーションを行い構造を解析する必要があると考えられる.

4 結論

MD計算を用いて水/ x Na2O-(1−x)SiO2ガラス界面モデルの構築と界面近傍におけるガラスの構造解析を行った. 界面近傍の不安定化したガラス構造がナトリウムイオンを拘束する可能性が示唆された. また, x=0.1 ~ 0.2で水分子のガラスへの浸入が見られた. 今後は, 長時間のシミュレーションを行い構造を解析を行う予定である. また, 水モデルにH2O以外の化学種が混在していたため純水のモデルを用いてシミュレーションを行う予定である.

参考文献
 
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