2020 年 19 巻 3 号 p. 87-93
素粒子のひとつであるミュオンは,その負電荷のため電子と同じように原子軌道を作り,ミュオン原子を形成する.ミュオンは電子の207倍の質量があり,その原子軌道は原子核に極めて近い.その一方で,ミュオン原子の形成過程においては,ミュオンを捕獲する原子の電子状態の影響があることが知られている.具体的には,原子へのミュオン捕獲確率や,捕獲されたミュオンの原子軌道の初期の準位は,同じ原子に捕獲された場合であっても分子によって異なる.様々な分子に対するミュオンの捕獲過程の研究から,電子の空間的な分布により捕獲されるミュオンの初期状態が変化することが報告されている.本稿では,これらのミュオン原子形成における化学研究について概観する.