脳神経外科ジャーナル
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特集 脳機能解剖の多次元解析
大脳白質解剖と言語
藤井 正純前澤 聡岩味 健一郎齋藤 清
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2016 年 25 巻 5 号 p. 396-401

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抄録

 大脳白質解剖は, 古くは17世紀から行われている技術であるが, 前世紀にいったんその役目を終えたかにみえた. しかし, 近年のトラクトグラフィーなど画像診断の進歩や, 高次脳機能を含む脳機能に関する知見の集積, 覚醒下手術の発展などに伴って, ヒトの脳解剖, 特に白質解剖は再度その重要性が増しており, 日米欧でのプロジェクトの進行など, まさにルネッサンスを迎えている. 実際, 現在でも新たな白質線維とその機能が次々と「発見」され, 報告されている. また, これまでの脳という臓器に対する皮質中心の固定化した局在的脳機能観から, よりダイナミックなネットワークとしての脳機能観への新たな展開がみられる. 脳神経外科手術においても, これまでの比較的単純な神経機能温存を超えて, 豊かな社会生活を営むうえで高次脳機能の温存の重要性が認識され, 脳神経外科医にとって今後こうした白質解剖と脳機能に関する十分な知識が欠かせない. 一方言語の神経基盤は, 古典的なブローカ野・ウェルニッケ野とこれらを結ぶ弓状束からなる単純なモデルから, 現在では, 大きく, 上縦束を中心とする背側の音韻処理系と下前頭後頭束を中心とする腹側の意味処理系からなる基盤的二重回路に複数のサブネットワークが関与するダイナミックなネットワークモデルに発展している. これら言語機能を支える神経基盤について, 特に関連する白質解剖につき最新の知見を交えて紹介した. 言語を含めた高次脳機能の温存には, 皮質だけでなく白質についても熟知する必要がある.

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© 2016 日本脳神経外科コングレス
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