2012 年 65 巻 5 号 p. 288-293
隣接臓器の癌が経上皮性に連続して周囲表皮内に浸潤し,Paget病様の病理像を呈するPagetoid spreadと呼ばれる現象は比較的まれな病態である.一般的には皮疹,発赤,びらんなどの皮膚病変を伴うことが多いとされている.今回,我々は術前に肉眼的皮膚病変を認めなかったが,病理組織検査にてPagetoid spreadが診断された肛門管腺癌の1例を経験した.症例は77歳男性,排便時出血を主訴に当科を受診した.歯状線直上に15mm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.生検の結果,肛門管腺癌と診断し,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術(D2郭清)を施行した.術後,病理組織検査で肛門管から肛門周囲皮膚の扁平上皮内に浸潤するPaget様細胞が認められた.Pagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌は比較的まれであり,皮膚病変が認められない場合には術前診断が非常に困難である.若干の文献的考察と検討を加えて報告する.