2016 年 69 巻 7 号 p. 379-386
グリセリン浣腸は術前処置などの日常臨床,便秘に対する家庭での医療行為として頻繁に行われている.しかし,浣腸により直腸損傷をきたし,腹膜炎を併発して人工肛門造設術が必要となった症例や,グリセリンが血管内に迷入し溶血,急性腎不全へ移行した症例も報告されている.
当院で経験したグリセリン浣腸による直腸損傷の4例について報告する.
性別はすべて女性.年齢は59~91歳で,3例は85歳以上の高齢者であった.3例で便秘に対して自宅で浣腸が施行され,1例は内視鏡検査前処置として院内で施行された症例であった.CT検査では全例に直腸周囲の遊離ガス像,脂肪濃度上昇を認め,1例では広範囲に後腹膜気腫を認めた.全例,非観血的療法(絶食,輸液療法,抗生剤投与)により軽快し,観血的療法を要した症例はなかった.1例でグリセリンによる溶血を認めたが,輸液,利尿薬投与により改善し,腎不全への進展はみられなかった.