2020 年 73 巻 6 号 p. 258-263
症例は70歳男性.便柱の狭小化を主訴に前医を受診された.下部消化管内視鏡検査にて直腸に全周性腫瘍を指摘され,精査加療目的に当科紹介受診した.既往に9年前内痔核に対して痔核根治術を施行された.初診時に肛門縁の9時方向に1cm大の圧痛を伴わない硬結を認めた.直腸腫瘍と肛門部腫瘤の生検ではいずれもtub1の病理組織診断であった.精査の結果,直腸S状部(RS)癌cT4a cN2a cM1b(PLU2,SKI)cStageIVbの診断にてHartmann手術および経肛門的腫瘍切除術を施行した.病理組織所見ではRS癌と肛門部腫瘤は共に,免疫組織化学的にcytokeratin(CK)20一部陽性,CK7陰性で,肛門部腫瘤はRS癌からの肛門部皮膚転移と診断された.確定は困難であるが,管腔内に脱落した癌細胞のimplantationや,中枢側リンパ流の閉塞によるリンパ行性進展が考え得る転移経路と考えられた.