2021 年 74 巻 8 号 p. 509-514
【緒言】非常に稀な大腸癌の鼡径管転移の1例を報告する.【症例】53歳,女性.下部消化管内視鏡検査でS状結腸腫瘍を認め,生検結果は中分化型腺癌であった.腹部CT,MRIで領域リンパ節,両側卵巣の腫大と右鼡径部に2cm大の不整結節を認めた.腹壁・卵巣転移を伴うS状結腸癌の診断で開腹S状結腸切除 D3郭清,両側付属器切除,右鼡径部腫瘍切除を施行した.術中,右鼡径部腫瘤は鼡径管内に認めた.病理検査で卵巣,鼡径管腫瘍はともに転移性大腸癌だった.術後補助化学療法施行後,術後19ヵ月で左鼡径管および骨盤内に多発再発を認め,現在化学療法加療中である.【考察】腹部悪性腫瘍の鼡径管転移の経路として子宮円索に沿ったリンパ経路,ヘルニア嚢を介した腹膜播種経路が報告されており,本症例もいずれかの経路で鼡径管転移をきたしたと推測される.【結論】卵巣転移や腹膜播種を伴う大腸癌では,鼡径管転移の可能性も考慮する必要がある.