1984 年 37 巻 5 号 p. 618-622
骨化を伴った上行結腸平滑筋腫の1例を報告した.
症例は68歳男性.主訴は下血.注腸レ線検査・大腸内視鏡検査にて上行結腸に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.腫瘍は硬く, 悪性腫瘍と鑑別しえず, 癌に準じて切除した.切除標本では径1.8×1.5cmの粘膜下腫瘍で, その頂部に潰瘍形成を認めた.組織学的には腫瘍内骨化を伴う平滑筋腫であった.
平滑筋腫が上行結腸に発生することはまれで, 本例は本邦で3例目である.本症は無症状のことが多く, 時に疼痛・出血にて発見される.しかし生検は勿論切除標本の組織診にても肉眼との鑑別の不可能なことがあり, 悪性腫瘍に準じた治療の必要な症例が存在する.本症の骨化例は報告がなく, 発生機序については, 腫瘍発生時既に母地がosteogenic potentialityを有するという説をはじめとして諸説あるが, 詳細は不明である.