日本大腸肛門病学会雑誌
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V妊娠・分娩と痔疾患
高野 正博
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1990 年 43 巻 6 号 p. 1077-1082

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抄録

妊娠中, 痔疾患は増大する子宮による圧迫, 鬱血, 排便障害, ホルモンなどの影響を受けて発生あるいは増悪する.経産女性200例の痔疾患患者を分析してみると, 分娩後症状が出現した例が128例 (64%), 分娩後悪化した例が16例 (8%) と妊娠・分娩により発生・悪化した症例が多かった.痔核に合併した病変では, スキンタグ・肛門ポリープ・裂肛・肛門狭窄などが多い.したがって妊娠中には, 肛門の衛生に留意して痔疾患の発生・予防・増悪防止に努める必要がある.しかし嵌頓などの増悪症例では, 妊娠が安定している妊娠中期 (20~32週) に本人・家族・産婦人科主治医の了承を受け, 手術を行うようにしている.術前検査・処置・麻酔・術後処置などは通常と変わるところはない.手術の体位はSims位とする.術式は痔核に対しては結紮切除を基本とし, これに軟部組織・肛門上皮温存を加味した「肛門上皮・Cushion温存痔核根治術」を行っており, これも通常と変わるところはない.ここ4年間に18例の妊婦の手術を行ったが, 重篤な産婦人科的合併症はなかった.また入院期間は通常よりもかえって短い.術後肛門合併症はやや多かったが, いずれもminorなものであった.分娩直後の増悪例に対しては, とくに合併症なく安全に手術を行えるという報告もあるが, 急速に病状が軽快する場合が多いため, 積極的には手術は行っていない.

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