1991 年 44 巻 1 号 p. 73-80
症例は38歳,男性,発熱,右上腹部痛を主訴に近医受診,転移性肝腫瘍を疑われ当科紹介,入院となった.画像診断にて肝全域に多発する腫瘍を認め,また下部直腸に4.5cm大のBorrmann 1型腫瘍を認めた.肝および直腸腫瘍の生検標本の病理学的検討により肝転移合併直腸カルチノイドと診断した.Grimelius染色陽性,Fontana-Masson染色陰性であった。5-HIAA,セロトニンは正常値,ブラジキニンは高値を示したが,カルチノイド症候群を疑う症状は認めなかった.直腸腫瘍に対して姑息的直腸切除術,肝転移に対してIFN-α-2a動注,TAEを施行した,IFN動注の奏功度はNC,TAEの奏功度はPRであった.1990年3月までに本邦で報告された肝転移合併直腸カルチノイド51例についてみると,TAEを施行した4症例は生存期間が非施行例と比較して著明に延長していた.自験例の経験も考え合わせ,TAEは直腸カルチノイド肝転移例,とくに多発例に対して積極的に施行すべきと考えられた.