1992 年 45 巻 2 号 p. 214-218
回腸の悪性リンパ腫に起因する成人の腸重積症を経験したので本邦報告例の集計と検討を加えて報告する.症例は76歳,男性で,主訴は数回の粘血下痢便.同症状にて近医に入院,注腸造影にて回腸末端部の腸重積症と診断され,当科に転科入院.画像所見から小腸重積症と診断し,回腸部分切除を施行した.重積腸管の内筒の先端付近に大きさ2cm大の山田III型のポリープ様病変を認め,病理組織学的に,びまん性大細胞型の悪性リンパ腫と診断.術後多剤併用化学療法を2クール施行し,術後35カ月経過した現在,再発の徴候なく健在である.腸重積をきたした悪性リンパ腫の本邦報告例をみると,術前にリンパ腫によると診断されたものは65例中3例に過ぎなかった.成人にみられる小腸の腸重積は慢性的に経過することが多く,特異的な症状に乏しいため確定診断に至ることが困難なことが多い.本症の診察に際しては,器質的疾患,とくに悪性腫瘍の存在を念頭に置くことが重要と思われた.