1993 年 46 巻 6 号 p. 802-807
直腸肛門部の無色素性悪性黒色腫は非常に稀な疾患で,本邦ではこれまでに16例の報告を認めるだけである.今回,術前に無色素性悪性黒色腫と診断し,直腸切断術を施行した1例を経験したので報告する.症例は64歳,男性で,肛門出血肛門部痛を主訴に来院した.肛門管の2~6時方向に灰白色のBorrmann 1型様の腫瘍を認め,生検標本の組織所見ではHE染色とメラニン染色から無色素性悪性黒色腫の診断が得られた.またCT検査では肺・肝に転移を認めた.切除標本では腫瘍は歯状線やや口側に位置する,径6.2×5.2×2.8cmのBorrmann 1型様の腫瘍で,組織学的所見ではS-100蛋白,HMB-45陽性の無色素性悪性黒色腫と診断された.組織学的進行度はP0H3a2n0ly0v3M(+)で,stageVであった.術後Pirarubicin,Bleomycin,Cisplatinによる多剤併用化学療法の他に,OK-432,Interleukin-2の併用療法も試みたが,術後3カ月目に死亡した.