1996 年 49 巻 10 号 p. 1238-1246
直腸癌手術も拡大郭清によって根治性を追求するのみならず, 根治性をそこなうことなく機能温存を図る方向へと変遷してきている. さらに診断技術の進歩や集団検診の普及により, stageの低い症例が増加してきている. 1975年から1983年までの前期症例と1984年から1990年までの後期症例を背景因子や手術成績の点から比較検討した. 後期には腹大動脈周囲リンパ節郭清や腹膜外経路による側方リンパ節郭清をより徹底しながらも, できるだけ骨盤神経叢や自然肛門の温存に努めてきた. その結果, 前期症例の5生率71.2%に対し, 後期では83.3%と有意な手術成績の向上が得られ, stage別内訳をみると, とくにstageIIIaでの5生率の向上がみられた. stageIIIb以上の進行例では外科治療に限界も感じられたが, n3n4陽性例に長期生存例も出てきており, 単なる縮小手術にとどまらず, 拡大リンパ節郭清を図った機能温存手術を基本にすべきと考えられた.