2004 年 57 巻 8 号 p. 465-469
症例は65歳,女性.排便困難を主訴に受診した.下部直腸から肛門管前壁に3cm大の隆起と潰瘍が併存した病変を認め,生検では低分化腺癌とされた.一方,上部直腸が高度に狭窄し,同部の生検結果はGroup1であった.CTとMRI検査で直腸後壁の腸間膜脂肪層が腫大リンパ節と一塊となり著明に肥厚していた.
直腸癌の診断にて直腸切断,子宮卵巣腟後壁合併切除術を施行した.病理組織所見では類基底細胞癌が粘膜下を口側に広範囲に進展し,子宮腟浸潤,卵巣転移,3群リンパ節転移を認めた.また下部直腸には高分化腺癌が併存し,衝突癌であった.
肛門管類基底細胞癌は潰瘍面が小さく粘膜下腫瘍様に口側へ進展し,リンパ節転移の著明な特徴を有する.自験例は早期直腸癌との衝突癌であり,上部直腸が高度に狭窄した複雑な臨床病態を示した.