本稿の目的は,物語における「矛盾」の視点が読みの授業にどのように関わるかを明らかにすることである。そして「矛盾」に着目し進展を見せた実践を再評価することによって,読み深めるという国語教育の課題に迫る一つの視点を示す。「手ぶくろを買いに」の「矛盾」は子ぎつねだけを一人で町まで行かせた母親の行動である。母親の「矛盾」した行動をめぐる解釈・実践を分析し,補足すべき解釈を提案する。実践においては,母親の行動の「矛盾」への気づきをとり上げたもの,「矛盾」を学習問題として話し合ったものがあった。これらは「矛盾」に関わる問題意識を高め,作品の主題に迫る学習としての意義が認められた。「矛盾」の視点による解釈・実践が,問題を明確にして問題を解決しようとする読みの可能性を示したと考える。