本研究は, 酸性硫酸塩土壌を有するタイ南部ナラチワ県を研究対象地とし, 酸性土壌地域でのイネ収量を向上させることを目的として行ったものである. 第1報として, まず, 人工的に作った強酸性土壌にイネ (Oryza sativa L.) 48品種を移植し, 4週間後の個体の生存率によって14品種を選抜した. なお, 参考として, 酸性土壌に強いとされるアフリカイネ (Oryza glaberrima Steud.) 29品種もイネと同様に栽培し, 耐酸性を調べた. その結果, イネ14品種とアフリカイネ10品種が選抜された. 選抜されたイネ品種14のうち, 強酸性土壌で最も高い生長速度を示した4品種と, タイ南部ですでに耐酸性があるとされている2品種, それに本研究で耐酸性がないとされた3品種を比較することによって, イネの耐酸性機構を生理学的側面から検討した. 対照区に対する酸性土壌区の相対根長は, 耐性品種で大きく, 非耐性品種で小さかった. 葉面積においても根長と同様な傾向が見られた. さらに, 酸性土壌条件下での作物生長の阻害は, アルミニウム (Al) に起因することから, 酸性土壌条件下で栽培された植物体の葉身Al濃度を調べた. その結果, 葉身Al濃度は耐性品種よりも非耐性品種の方で高くなっていた. そこで, 葉身の光合成速度を測定したところ, 葉身の光合成速度は耐性品種の方が非耐性品種よりも有意に高い値を示した. これらのことから, Alが葉身にまで移行しにくく, その結果高い光合成能力が維持されていることが, 酸性土壌耐性の大きな原因の一つと考えられた.