日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
形態
湛水土壌中散播イネにおける苗立ち型別の生育と収量の特徴
周 紅森田 脩江原 宏
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 72 巻 2 号 p. 177-184

詳細
抄録

湛水土壌中散播栽培において, 苗立ちの安定度がイネの生育と収量に及ぼす影響を明らかにする目的で, 酸素供給剤 (過酸化カルシウム) でコーティングしたどんとこい, コシヒカリ, ヤマヒカリを用い, 苗立ちが揃う播種後2週目の3葉期の幼苗について, 地表への根の露出程度と幼苗固定の状態によって苗立ちを分類した. 即ち, 根の一部は見えるが苗は地面にしっかり固定されている接地型, 種籾が水中に浮き上がっているが, 根によって比較的しっかり固定されている浮上りI型, 種籾は浮き上がって個体の揺れが大きかったり, 横転している浮上りII型, 土壌中に埋没した種籾から出芽している土中型の4種類に苗立ち型を分類し, 苗立ち型別に幼苗期から収穫期までの生育過程と収量を調査した. 苗立ち型の生育経過をみると, 3品種とも浮上りI型, II型は3葉期で草丈, 乾物重, 苗の充実度 (地上部乾物重/草丈) などが土中型苗より劣り, 6葉期になると接地型も各形質は土中型より顕著に小さくなった. 3∼6葉期にかけて, 接地型, 浮上りI型, II型と土中型との葉身長および葉幅の差が拡大し, 葉身が相対的に小型化した. 草丈は最高分げつ期前後に苗立ち型間で差が小さくなり, 劣勢を回復することができたが, 乾物重と茎数は3∼6葉期に生じた差が収穫期まで継続した. 接地型, 浮上りI型, II型由来の個体は, 土中型由来の個体との間に千粒重および登熟歩合の差は認められなかったが, 1株穂数は有意に少なくなり, 1株収量が減少した. このことから, 接地型, 浮上りI型, II型は幼苗期の分げつ数の減少が1株穂数に直接影響して, 1株籾収量を減少させる要因となり得ることが判明した.

著者関連情報
© 2003 日本作物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top