著者らが開発した水稲の不耕起V溝直播栽培(以下, V溝直播)は, 近年普及拡大しつつあるが, 2006年現在, 愛知県の稲作面積に占める割合はまだ3%にすぎない. 省力性に優れ生産コストの低減が可能な本直播を慣行栽培法と置換するレベルにまで普及させるには, その収量性が高いことを実証することが不可欠であると考え, 直播のみで世界一の単収を得ている豪州の直播栽培と比較検討した. まず, 豪州NSW州南部の稲作地帯に展開する3種の播種様式, Aerial Seeding, V溝直播に類似したCombine Seeding及びSod Seedingについて農家圃場において生育収量を調査し, 3者とも収量性は同等であることを明らかにした. また, Yanco Agricultural Institute(以下, ヤンコー)において, V溝直播の施肥播種様式を模してコシヒカリ及びAmarooを栽培してヤンコーの慣行様式と比較したところ, 慣行様式ではAmarooの生育収量がコシヒカリより優ったが, V溝直播の様式では両品種ともに同等の生育収量が得られ, コシヒカリの生育収量は慣行様式よりも有意に優った. さらに, 豪州に特有の栽培条件のうち, 多い播種量, 多い施肥量, 深い湛水深と落水しない水管理(以下, 深水無落水)を, 愛知県でV溝直播に適用したところ, 深水無落水は有効茎歩合を高めたが, いずれの条件も収量改善の効果は小さかった. これらのことから, V溝直播は世界一の単収を得ている豪州の直播技術と置換しうる収量性が得られると結論づけた.