日本作物学会紀事
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収量予測・情報処理・環境
気象データによるコムギ子実含水率の簡易推定法
中園 江大原 源二
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2010 年 79 巻 4 号 p. 506-512

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抄録

日本のコムギ栽培では降雨によって引き起こされる品質の低下が大きな問題となっており,これを回避するためには子実含水率を指標として適期に収穫することが必要である.子実含水率の推移を,開花期から生理的成熟期(前半),生理的成熟期から収穫期まで(後半)の2相に分け,前半は登熟の進行に従い,後半は主に物理的過程により決定されると考えた.前半の子実含水率は,日平均気温から算出した発育指数(DVI)の関数で表せることを,農林61号を供試して前報で示している.本試験では,前半から後半への切り替え期間の設定および後半の推定法の検討を行った.その結果,生理的成熟期前後に3日間の切り替え期間を設定し,期間内に2つの推定式を併用した場合に,推定値と実測値の差が最小になることを示した.また後半の推定式を作成するために,蒸発および吸水による子実含水率の増減を測定して,気象要素との関係を解析した.蒸発による子実の毎時乾減率(1時間の子実含水率の減少量) と最も相関の高い気象要素は飽差であった.蒸発開始時の子実含水率 (初期含水率)と毎時乾減率との関係は子実含水率により異なり,30%未満では初期含水率が低いほど毎時乾減率が低下した.このことから,子実からの蒸発に対する抵抗が子実含水率に依存すると考え,毎時乾減率を飽差と初期含水率の2変数で表す式を作成した.また穂を浸水して測定した子実含水率の増加過程は自然降雨下での増加過程と一致し,浸水時間を降雨時間と見なして,任意の子実含水率を開始点とした降雨による吸水の式を作成した.上述の切り替え条件を適用して,毎時乾減率と吸水の式により2003年から2007年までの作期を対象にして子実含水率を推定した結果,後半の子実含水率の推定値と実測値の二乗平均平方根誤差は3.68%になった.検証に用いた子実含水率は,圃場全体の登熟の進度を把握するために現場で用いられている方法で測定した穂の含水率とほぼ一致しており,水分含量の予測を通して圃場単位の登熟進度を把握することにより,コムギの適期収穫に貢献出来る可能性が示唆された.

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