日本作物学会紀事
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作物の呼吸作用に関する研究 : 第8報 水稲根の呼吸に及ぼす硫化水素及び数種有機酸の影響
山田 登太田 保夫
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1959 年 27 巻 2 号 p. 155-160

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抄録
水稲根の呼吸が硫化水素や二三有機酸の処理によりいかに変化するか, それに伴い根のα-Naphthylamine酸化力, 窒素, 燐酸の吸収がいかに変化するか, また土壌の種類や土壌還元あるいは排水良否が根の呼吸に及ぼす影響を研究した. (1) 硫化水素の影響. 硫化水素によつて根の呼吸は阻害されるが, その阻害率は水稲体の窒素栄養状態によつて異なり, 多窒素状態では比較的小さく, 無窒素では大きい. 根のRQは1または1以下であるが硫化水素処理により1以上に高まり, aerobic fermentationが起つている. 根の呼吸の低下に伴いNH4-N及び燐酸の吸収は低下し, 特に後者では根からの排出が起る. ただある呼吸量の下でどの程度のNあるいはPを吸収するかは水稲体の栄養状態で左右されるので両者間の量的な関係は明らかでない. α-NA酸化力の大小は呼吸と密接な関係を示す. 硫化水素の影響は根の生育する土壌の種類で異なり, 秋落田, 湿田土壌に生育する根は硫化水素阻害率が高い. これら不良土壌に生育する根は老化と共に急激にその呼吸が低下する特長を示し, 根の活動期間が短いと考えられる. 他方硫化水素による呼吸の低下は老根より若根で著しいので, 結局不良土壌の根は硫化水素処理によつて阻害率が大きく表われる. (2) 有機酸の影響. 酪酸処理により根の呼吸は一時増大 (20~30%) するが, やがて低下する. 蟻酸, プロピオン酸処理では直ちに低下が見られた. 根の呼吸の低下に伴いN及びPの吸収も阻害されるが, 酪酸の場合呼吸が増大し, しかもチトクローム酸化酵素活性も増大して, 正常な末端酸化酵素系による呼吸が行われているにも拘らず物質吸収は低下することが見られ, 有機酸処理によりoxidative phosphorylationが影響されていると考えられる. 尚この場合にも呼吸とα-NA酸化力とは平行的に変化することが見られた. (3) 土壌還元と排水不良. 生藁や紫雲英の多施により土壌の還元を進めると, 最高分〓期以後出穂期以後まで根の呼吸は低下する. 排水不良田に生育する根の呼吸も対照となし得べき排水良好田に於けるより低い. 以上の結果から水稲根の活力診断所上根の呼吸の大さが役に立つものと考えられ, またα-NA酸化力の比較は実用的な方法となり得るように思われる. 尚本研究は農林水産技術会議の「稲作に於ける土壌と水」に関する研究の一環をなすものである.
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