日本作物学会紀事
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水稲のクロリナミュータント, CMV-44の光化学反応
狩野 広美小泉 美香桂 直樹稲田 勝美
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1988 年 57 巻 2 号 p. 360-365

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抄録
クロロフィルbを完全に欠く水稲のクロリナミュータント, CMV-44の光化学反応の光飽和曲線を, オオムギのクロリナミュータントであるChlorina f2とともに調べた. SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってクロロプラストのチラコイド膜上の蛋白質を比較すると, 通常型品種に存在する集光性クロロフィルa/b蛋白複合体と光化学系Iのアンテナクロロフィル蛋白複合体がクロリナミュータントでは欠けていた. このためにクロリナミュータントのクロロフィルa/b比は高く, 光合成単位のサイズ(クロロフィル/P700比)は小さくなっていた. 水稲の単離クロロプラストを用いて, NADP還元による光化学系Iの活性と, フェリシアン化カリの還元による光化学系IIの活性を測定して光飽和曲線を求めると, 通常型品種である農林8号の方が低照度領域での活性が高く, CMV-44より低照度で最大活性に達した. 次に, 閃光分光分析器により生葉のP700の吸光度変化を測定した. 測定光によって酸化されているP700の割合(H/P)は系Iの反応効率を示すが, これを数種の水稲の栽培品種とオオムギについて測定すると, クロロフィル/P700比が大きいものほど系Iの反応効率は高かった. さらにこの吸光度変化から, 系Iの光飽和曲線をシミュレートすると, 低照度領域におけるクロリナミュータントの反応効率は通常型品種より低く, 単離クロロプラストで得られた結果が確認された. 一方, 最大活性は, 水稲ではほほ同じであったが, オオムギの場合, クロリナミュータントは通常型品種の約1/2になっていた. 本研究の結果より, クロロフィルb含量が高く光合成単位の大きな作物葉は, 葉の混み合った群落中, 施設栽培および冬期のような低照度条件下においても高い光合成活性を示すであろうと考えられる.
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