日本作物学会紀事
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水稲における穂と小穂の形態形成に関する走査電子顕微鏡観察
武岡 洋治小川 佳子川合 豊彦和田 富吉
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1989 年 58 巻 1 号 p. 119-125

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抄録
水稲の発育に伴う幼穂と小穂の器官形成に関し, 頂端分裂組織の形態的変化, 雌・雄生殖器宮の相対的発育関係, 小穂構成器官の立体的配置, 器官表面構造の発達などを走査電子顕微鏡で観察した. 水稲品種ユーカラとフジヒカリを20 l容コンテナで土耕栽培し, 幼穂始原体分化期から出穂期まで連日アクロレイン5%を加えた改良カルノフスキー液で固定して, アセトン脱水, 金コーティングを施した後検鏡した. (1) 幼穂始原体分化期に高さと幅の比(H/W)が1であった頂端分裂組織の形態は, 内穎始原体分化期には0.4, 雄ずい始原体分化期には更に0.2に減少し, 幼穂の発育全期を通じて最小で偏平になった. (2) 外穎と内穎が内部の花器を包む時期までに雄ずいは葯と花糸に, 雌ずいは胚珠と子房壁に分化し, 葯表皮のクチクラが発達し始める花粉母細胞減数分裂期には, 花柱の先端で柱頭細胞が分化した. クチクラのひだ状構造が葯表面を被う時期には柱頭毛の形成が活発となり, クチクラが左右に入り組んだ構造に変化する時期に花柱維管束の木部導管が発達した. (3) 6個の雄ずい始原体中外穎側中央の1個は他より下位に位置し, 外穎側3個と内穎側3個との間に位置的上下関係が認められた. (4) 葯表皮におけるクチクラの発達とその構造変化は花粉外殻形成開始期から花粉内容充実終期に至る時期に進行し, 花粉成熟に伴う約壁細胞の厚壁化または収縮と関連してひだ状構造に変化が生じたと推察された. 花粉とタペート細胞表面における球状体の発達について若干考察した.
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