抄録
水稲の湛水土壌中直播法において, 種籾近傍の土壌ははじめ酸素発生剤で酸化されるが発芽するころからは急激に還元される。この現象は出芽・苗立ちの不安定性と関連が深いと考え, 酸素発生剤として過酸化石灰剤を被覆した種籾 (被覆籾) の近傍の局所的土壌還元の進行経過と発芽・出芽との関係を調査した。(1) 被覆籾近傍の還元は発芽力がない被覆籾では緩やかだが, 発芽力のある被覆籾では急激で, 発芽した場合には一層促進された。また, 還元は発芽と同時期ないしそれよりやや早く, 胚の付近から始まり拡大した。以上のことから, 発芽は被覆籾近傍の局所的で急激な還元の主因とはいえないが, 一因と考えられた。(2) 被覆籾近傍の還元が発芽を阻害する可能性は小さいと考えられた。しかし, 発芽日およびその翌日の被覆籾近傍の還元程度がある限界を越えると出芽率が大きく低下することから, 被覆籾近傍の還元は水稲の湛水土壌中直播法における出芽率低下の有力な原因と考えられた。(3) 現行の過酸化石灰剤の効果を改善し, 発芽後数日間の被覆籾近傍の還元を抑制すれば, 出芽の向上だけでなく, 安定化も図れる可能性がある。