日本色彩学会誌
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侘び・寂びの色彩美とその背景―和の伝統的色彩美の特性を求めて
吉村 耕治山田 有子
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2017 年 41 巻 3+ 号 p. 40-43

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抄録

 詫び・寂びは,決して過去の芸術作品のみに見られる美意識ではない.21世紀の現在でも,日本文化の基盤を形成している.一般的には,簡素の中にある落ち着いた寂しい感じや,枯淡の境地を表すと考えられているが,その根底には,この世のはかなさや人生のはかなさを感じる無常観が存在している.単に仏教の無常観だけではなく,無常であるがゆえに美しいと感じる美意識(徳)が内包されている.木,土,石,わら,竹などの自然の素材を大切にし,素朴で簡素な原始的芸術の要素を含んでいる.侘び茶を完成させた千利休は,一期一会の精神や心で感じる美しさを大切にしながら自然の造形を活用し,自然界の色合いになじませつつ茶会の道具や懐石,茶室の部分に工夫を凝らすことにより,侘び・寂びの美と心を体現している.侘びの妙喜庵と秀吉の黄金の茶室とは,対極にあるように見えるが,実は不可分で相補的関係にある.侘び・寂びの美意識は,知足の心や風流心の大切さを暗示し,その色彩とは,自然界の素材の色を活用することから,色みや清色を否定し,草木の香りのする簡素な色彩美で,ブラウン(茶色)系やグリーン(緑)系を中心にした渋みのある中間色を表している.

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