2019 年 43 巻 3+ 号 p. 111-
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたVirtual Reality(VR)体験は,臨場感のある没入体験を可能にする.近年では,VRシミュレーションを用いた外科手術訓練などにも利用され,エンターテイメントに限らず,専門的分野においても広く普及している.VRの有用性やVR酔いのようなVR特有の症状に関する研究は多く行われているが,一方,現実空間とVR空間における見えの違いを詳細に調査した例は少ない.我々は先行研究において,通常のデスクトップディスプレイとHMDにおける色の見えを調査するため,単色のパッチ画像刺激を用いた主観評価実験を行った.その結果,HMD上ではデスクトップディスプレイより明度と彩度が高く知覚される可能性が示唆された.そこで,次のステップとして,本研究では,現実空間を再現したシーン画像を用いた場合でも,デスクトップディスプレイとHMDにおいて色の見えが異なるかを調査した.実験結果より,シーン画像を用いた場合でも,HMDによる再現の方が,明度と彩度が高く知覚される可能性が示唆された.また,被験者によって注視する範囲が異なったにもかかわらず,明度と彩度は同様に高く知覚される結果が得られた.