1998 年 54 巻 p. 75-81
資料保存の問題が議論されるようになって久しいが,これを図書館の政策として事業を展開し,成果を上げている例は未だ非常に少ない。殊に近年図書館界は総力を挙げて電子図書館化を図らなければならない状況下にあり,資料保存の重要性は認めつつも,多くの図書館では当面の問題として取り上げるゆとりがないというのが実状である。事情は本館も全く同様であるが,今回貴重図書の整理作業の機会を捉えて西洋古刊本の修復を試みた。この事例報告と,書物修復家岡本幸治氏の,この事例についての批評を併せて報告し,図書館における資料保存事業のあり方について改めて考えてみたい。