口腔衛生学会雑誌
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原著
疫学調査における妥当な標本の大きさについて
笹原 妃佐子河村 誠河端 邦夫戸田 信彦土田 和範岩本 義史
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1995 年 45 巻 5 号 p. 807-814

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抄録

近年,自然科学系の研究者のみならず社会科学系の研究者においても,解析手段としての統計学はますますその重要性を増している。しかし,研究者は,通常,統計学における検定結果を第1種の過誤を犯す確率αによって解釈し,第2種の過誤を犯す確率βについて考慮することはほとんどない。本研究では,既存の有限母集団から,ある一定の大きさの標本を繰り返し抽出する実験を行った。母相関係数の異なる二つの有限母集団(母相関係数; 0.215,0.650)それぞれについて,標本の大きさとβについて検討し,再現性のある結果を得るための妥当な標本の大きさについて考察を加えた。有限母集団の一つは,幼児の母親から得られた2847組の歯科保健行動目録(HU.DBI)と口腔評価指数(ORI)のデータであり,その相関係数は0.215であった。他の一つは,2885組の大学新入生の身長と体重のデータで,その相関係数は0.650であった。それぞれの母集団から,標本の大きさが25,50,100,200,300,400の標本をランダムに100回ずつ抽出し,得られたすべての標本において. HU-DBIとORIの順位相関係数,ならびに,身長と体重の相関係数を計算した。その結果,母相関係数0.215 (P<0.001)のHU-DBIとORIのデータでは,有意水準を5%(α=0.05)とすると,標本の大きさが100の場合,全体の51%の標本で帰無仮説が棄却され,標本の大きさが400の場合, 99%の標本で帰無仮説が棄却された。つまり,標本の大きさが100の場合,βは0.49,標本の大きさが400の場合,βは0.01であった。一方,母相関係数0.650 (p<0.001)の身長と体重のデータでは,標本の大きさが50以上では,帰無仮説はすべての標本で棄却された。つまり,標本の大きさが50以上で,βは0.00を示した。以上の結果から,ある標本において,2変数間の相関係数の有意性が危険率5%以下で確認されたとしても,その標本の大きさが小さい時には,別の標本において同様の結果を得る確率は必ずしも高くないことが示唆された。即ち,第1種の過誤を犯す確率(危険率)が5%以下であったとしても,ある程度の標本の大きさが確保されていない場合には,結果の再現性はあまり期待できないと考えられる。

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© 1995 一般社団法人 口腔衛生学会
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