口腔衛生学会雑誌
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原著
カチオン化セルロース,水溶性カルシウム塩およびリン酸塩を配合したフッ化物配合歯磨剤のエナメル質におけるフッ化物滞留性とフッ化物イオン放出性の評価
石井 志織今崎 麻里橋本 遼太藤木 政志山本 幸司
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2024 年 74 巻 4 号 p. 282-289

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抄録

 カチオン化セルロース (以下,CC),カルシウム (以下,Ca)塩およびリン酸塩を配合したフッ化物 (以下,F)配合歯磨剤 [TP-CC+FCaP] のう蝕予防における有用性の検証を目的に,in vitroにて歯面モデルへのF滞留性とその作用機序を検討した.さらにTP-CC+FCaPで処理した歯表層から唾液へのFイオン放出性を検討した.

 3種類の試験歯磨剤 (CC+NaF+Ca塩+リン酸塩[TP-CC+FCaP],CC+NaF[TP-CC+F],NaF+Ca塩+リン酸塩 [TP-FCaP])懸濁液を遠心分離し,上清で処理したヒドロキシアパタイト(以下,HAP)ペレットから抽出されたFイオン量を測定した結果,TP-CC+FCaP処理群はTP-CC+F処理群,TP-FCaP処理群よりも有意に多かった.また,F滞留性の機序検証として各試験溶液 (CC+NaF+Ca塩+リン酸塩 [CC+FCaP溶液],CC+NaF[CC+F溶液],NaF+Ca塩+リ ン酸塩 [FCaP溶液])で処理したHAPペレット表面を走査電子顕微鏡で観察した結果,CC+FCaP溶液処理群の表面にのみ付着物が広範囲に確認された.さらにCC+FCaP,FCaP溶液を遠心分離して得られた沈殿物には,X線回折法により非晶質あるいは低結晶性化合物由来のピークが確認された.最後に,各試験歯磨剤で処理したエナメル質ブロックに対して唾液循環を模した条件で人工唾液の滴下・回収を繰り返し,回収した各人工唾液のFイオン濃度を測定した結果,回収2回目以降においてTP-CC+FCaP処理群から回収した人工唾液でTP-CC+F処理群よりも有意に高かった.

 以上よりTP-CC+FCaPは多くのFイオンを歯面に留めるとともに口腔内に放出し,従来のF配合歯磨剤より高いう蝕予防効果を示す可能性が示された.

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© 2024 一般社団法人 口腔衛生学会
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