本研究の遠大な目標は、カーボンナノチューブ(CNT)を使ってセルロースエタノール(=バイオエタノール)を大量合成することである。そこで、その計画方針について最初に述べる。日本は、国土の約67%が森林で覆われており、先進国の中でも森林資源に恵まれた国である。ところが今日の日本の林業は、外国からの安い材木に押されて衰退している。そのため、毎年800万トンもの間伐材が、全く利用されずに山々に放置されている。もしもこれら放置された間伐材を超低コストで糖化できたら、セルロースエタノールの大量合成が実現できるだろう。しかしながら、現時点では極めて高価な天然酵素を用いなければならない。最近、豊田中研の福島は、セルロース系バイオマスを、炭素系酸化物を触媒にしてマイクロ波加熱により、糖化できることを報告した1)。しかしながら、炭素系酸化物の原料となる炭素系化合物のカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンも極めて高価である。したがって、CNTが安く大量に合成できる方法が待たれていた。そこで我々は発泡スチロールに注目した。日本では、年間14万1千トンも生産され、そのうち51%の7万2千トンがリサイクルされ、30%の4万3千トンが無駄に燃やされ、残りは環境に放置されている。このごみとして焼却や廃棄されている発泡スチロールを、マイクロ波を用いて蒸し焼きにして、CNTを安価で大量に合成することを企画した。安価に大量に合成されたCNTを酸化し、糖化触媒として利用できれば、これを使って、放置されているセルロース系バイオマスから大量のセルロースエタノ-ルが安価に合成でき、日本はエネルギー自立の道が開けるものと、考えられる。従来のCNT合成法の主なものは次の3つが挙げられる:アーク放電法;レーザーアブレーション法;化学的気相成長法。しかしながら、これらの方法はいずれも、高価な装置や高エネルギー、高電圧、高真空が必要である。したがって、これらの短所のため、従来法では低コストで手軽にCNTを大量に生産することはできなかった。そこで、近年、我々はマイクロ波加熱を用いてCNTを安価で高速に合成するために、次の3つの新規な合成法をいままでに開発して来た