現代の教育をめぐる課題の一つは,教科横断的な資質・能力の育成といかに関連づけて教科教育をデザインするかということである。この課題にアプローチするために,本研究では,教科横断的なリテラシー教育の社会科への統合に注目し,その市民性育成の論理を解明することを目的とする。アメリカに見られる二つの方向性に焦点を当てて考察を行い,以下の点を明らかにした。
第一の方向性は,統合的思考者(integrated thinkers)の育成をめざす社会科とリテラシー教育の統合である。この統合は,様々な学問領域の知識を働かせて思考することができる能力を市民性の中核として重視している。授業は,テクストの読解に基づいて様々な学問領域の知識を活用させ,社会生活を読み解かせていく過程として構成されている。
第二の方向性は,批判的思考者(critical thinkers)の育成をめざす社会科とリテラシー教育の統合である。この統合は,社会の不公正について思考し,変革のために行動することができる能力を市民性の中核として重視している。授業は,テクストの読解に基づいて不公正の問題を顕在化させ,過去の社会正義問題の考察を通して現在社会の変革に向き合わせていく過程として構成されている。
二つの方向性は,いずれも民主主義社会の市民を育成するという目的のもとで社会科とリテラシー教育を関連づけ統合しようとするものである。ただし,どのような能力を市民性の中核と捉え,どのようなアプローチでそれを育成するかについては違いがあることが明確になった。